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《夏休みは始まった》
【鬼畜 官能小説】

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〈戻れない夏〉-5

『ご用意させて頂いたお部屋はこちらでございます』


貼り直された障子戸をあけると、上がり間と襖が見えた。
そこを開けると立派な和卓が置かれた八畳二間の綺麗な和室があり、更に窓の障子戸を開けると岩盤剥き出しの渓谷が見えた。


「わあ…凄い景色……」

「ねえねえ、風がとっても涼しくて気持ち良いよ?」


不粋なガラス戸を開けると、フワッと風が舞い込んできた。
渓流を吹き抜ける涼風は肌に心地好く、それはエアコンの人工的な風などとは比較にもならない。

滝壺の白と水面の青と林の緑は見事なコントラストを描き、その美しさを撮ろうと四人はスマホを取り出して窓から身を乗り出した。


「あ…あれ?私のスマホ……」

「やだ!?動かない……こ、壊れちゃってる…?」


バッグに入れていた奈々未と真夏のスマホは、壊れてしまったのか全く反応を示さなくなっていた。
里奈のスマホも作動がおかしく、肌身離さず持っていた麻衣のスマホだけが正常な反応を見せている。


「と…とりあえず私のスマホで撮っとこ?後で送信すればいいし……」


そもそも電波は圏外なので、通信機としての機能は役に立たない。
しかし、カメラ機能までも失ったとなれば話は変わってくる。

旅行の初っぱなからトラブルに見舞われた三人は表情を曇らせ、それでも写真だけは残しておきたいと麻衣のスマホを借りてはシャッターを切る。


「……あれ?女将さん、あの“離れ”は何ですか?」


奈々未は眼下の渓谷に降りていく形で作られた露天風呂の他に、もう一つの別棟の建物を見つけた。
景観を損ねるとまではいかないが、閉まりっぱなしの雨戸や、煤けた瓦屋根に枯れ枝や葉っぱが乗っかったままの真四角な平屋は、どこか古寺のような無気味な雰囲気を醸し出していた。


『あれは老朽して閉鎖した宴会場です。お恥ずかしい話、壊すのにも費用が掛かりますので…あのままにしておるところです』


黒光りする雨戸に浮かぶ杢目は、どこか苦痛に歪む人間の顔に見えなくもない。

奈々未は「何か(幽霊)写るかも?」とスマホで撮ると、自分も撮りたいと撮影を待ちわびている真夏へ手渡した。


『階段を下りましてフロント前を左手に曲がりますと、そちらが温泉浴場となります。大浴場と露天風呂とありますのでお好みの温泉をお楽しみください。そして左手に曲がらずに廊下を真っ直ぐに進むと宴会場になります。まだ準備の最中ですので、お呼びになるまではお入りになりませんよう』


露天風呂の行き方を聞いた四人は、さっそく入浴に行く旨を女将に伝えた。
女将や仲居は速やかに退室し、古めかしい洋服箪笥の中から浴衣を取り出した四人は、そそくさと衣服を脱いで着替え始めた。




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