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イノセント・ラブドール
【SM 官能小説】

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イノセント・ラブドール-4

「あなたって雨が薄紫色に見えるの」
「雨を見ているといろいろなことが薄紫色に想像できるから楽しい…」
 なぜそんなことをぼくが彼女の前で言ったのか自分でもよくわからなかった。

思っていたとおりマイコさんからいい匂いがした。雨にしっとりと濡れた黒髪、冴え冴えとし
た頬の色、瑞々しい首筋、制服のブラウスの脇から覗いた眩しい肌、胸のふくらみ、そして
スカートから伸びた健康的な脚と白いソックスに包まれた細い足首。

ぼくは彼女に気づかれないように彼女のからだの隅々まで舐めるように視線を這わせた。何よ
りも彼女のすべてがぼくのラブドールと寸分も違わなかったことにぼくは安堵した。

「この雨にあなたはいったいなにを想像しているのかしら」
「ぼくだけがいだくことができる美しい感傷…」

彼女はぼくの横顔を覗き見ると興味深そうに瞳を濃くする。

彼女の白いブラウスが雨に濡れ、十七歳にしては大人の女性を感じさせる胸のふくらみをくっ
きりと浮かび上がらせている。ぼくはラブドールの柔らかい胸の隆起と桜色の蕾を思い浮かべ
た。

「同じ高校なのにあなたの名前を知らないわ」彼女はぼくが胸につけている校章に目をやりそ
う言った。
「学校で名前を知らないやつはいっぱいいるよ。でもぼくはきみの名前がマイコさんだという
ことを知っている」

 えっ、彼女は一瞬戸惑ったような、それでいてとても可憐な表情を見せる。

「リョウ…ぼくの名前は園村リョウっていうんだ」こんなにはっきり自分の名前を女の子に言
ったことは初めてだった。


マイコさんは知らない。ぼくが彼女をこっそり盗み撮りしていたことを。
学校に行くときの制服の彼女、テニススコートを蝶のように撥ねる彼女、水色のワンピース姿
で土手を自転車で走り抜ける彼女。ぼくは密かに彼女を追い廻し愛用のカメラで彼女をとらえ
ていた。

そして何よりもぼくが彼女そっくりのラブドールを《所有》していることを知らない。それは
《彼女自身がぼくに所有されている》ことを知らないのだ。ぼくは彼女の裸身の隅々まで知っ
ている。ぼくは心の中に優越感をいだき、思わず洩らした苦笑を隠せなかった。

「なにが可笑しいのかしら」
マイコさんの声にぼくはふと我に返って微かに頬を赤らめた。

ぼくの中では目の前の彼女はすでに全裸だった。熟れた白桃のような胸のふくらみや下半身の
のびやかな輪郭、そして瑞々しい身体の隆起と窪み、それは今にも壊れそうなくらい脆いのに、
冴えきった肌は艶やかな陶器の手触りでありながら、ほどよい柔らかさをもっている。 


目の前にいる彼女は、ぼくが《所有》するラブドールそのものだった。


ラブドールの肌は、ほんとうは冷たいのに温かいものを、ほんとうは堅いのにとても柔らかい
ものを感じさせた。髪も、頬も、そして腕の内側や形よく隆起した乳房、なめらかなお腹の部
分も。彼女をなぞりあげるぼくの指先には、ラブドールの微妙な体温と肌の瑞々しい柔らかさ
がまぶされて伝わってくる。

ぼくは目の前にいるマイコさんを隅々まで眺め尽くし、甘美な気持ちに充たされる。なぜなら
彼女のすべてがぼくのものだから。甘やかな感情は言葉にならないような詩の感傷を生む。
言葉ではないけど、それは詩と言えるものだった。不思議だけどとても自然に湧いてくる詩だ
った。



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