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1対10
【スポーツ その他小説】

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1対10-3

主審のホイッスルが響いた。試合終了のものではない。

蹴斗が頭で打ったボールはゴールの中をゆっくりと転がっていた。


会場が湧いた。
試合終了の同点劇。
呆然と立ち尽くす相手選手。

そして決着はPK戦へと縺れ込んだ。





先攻は俺達のチームからだった。
一人目は互いに決めた。

しかし続く二人目、プレッシャーに負けたのか、相手のキッカーがゴールを大きく外してしまったのだ。
これで2対1。
俺達が一本リードした事になった。

三人目、四人目とも、互いに落ち着いてキーパーの逆をついて決めた。


俺達の五人目は蹴斗。
ここまで4対3と勝っている。これを決めれば5対3となり、相手の五人目が蹴らなくとも、俺達の勝利が確定する。


蹴斗なら決めてくれる。
皆そう思った筈だ。

蹴斗も落ち着いてキーパーの逆を狙って蹴った。入った。そう思った瞬間に、想像していなかった渇いた衝突音が響いた。

蹴斗の蹴ったボールはネットを揺らす事なく、ゴールを縁取るゴールポストによって阻まれた。

まるで十数分前の相手チームのように、呆然と立ち尽くす蹴斗。それもそうだろう、九分九厘、勝ちを掴み掛けていたのだから。

蹴斗の顔を見た。初めて見た弱気な顔だった。
蹴斗と目が合った。今にも泣き出しそうな目だった。


次の相手キッカーは背番号10。鮮やかなループシュートを決めてくれた奴だ。

ボールを置き、助走を取る。


蹴斗ともう一度目を合わせる。そしてその視線に総ての思いを込めた。

サッカーを与えてくれてありがとう。
ここまでチームを引っ張ってきてくれてありがとう。
そして『大丈夫だ』と。



視線を相手チームの背番号10に移す。
目が合った。こちらを射抜くような視線。全身から感じられる威圧感。流石は強豪のエースといったところか。大きく溜息をつき、腰に宛てていた手を下ろす。

何故だろうか。この場面で緊張は何処にもなく、驚く程澄んだ自分が居る。

頭の中で誰かが囁いた。
『止めれる』と。


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