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1対10
【スポーツ その他小説】

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1対10-1

照り付ける太陽が眩しい冬の空の下、
会場を埋め尽くすどよめきの中、
色を少しだけ忘れた芝生の上で、
向かい合う背番号1と10。

キーパーを射抜くような視線、全身から発せられているオーラはかなりの威圧感があり、名門校のエースに相応しいものだった。

固唾を飲んで見守る両チームの選手達。一方は止める事を願い、もう一方は決める事を望む。

観客、選手、監督、審判、会場内の全ての視線が二人の選手に注がれた。

キーパーにも伝わる程の大きな溜息をついて、腰に宛てていた手を下ろした背番号10。その動作全てに貫禄がある。


全国高校サッカー選手権大会県予選決勝。
延長戦でも決着が付かなかった試合は、PK戦まで縺れ込んだ。現在、4対3と先攻のチームが勝っている。

目の前の背番号10が後攻五人目のキッカーだ。
これを止めれば勝利を、優勝を得る事が出来る。だが、キーパーにプレッシャーは無かった。

僅か11メートル先から放たれるシュート。キーパー対キッカーの完全な一対一。
圧倒的にキッカー有利な勝負ではあるが、『止めれる』。彼の中の自信ではない何かがそう言った。

主審の手が掲げられた。ホイッスルが晴天を貫き、静寂がピッチを支配した。





サッカーを始めたのは高校から。一年の時に、同じクラスだった蹴斗に誘われたのがキッカケだった。特別やりたい事も無かったから、誘われるままサッカー部に入った。

初めの三ヶ月は全く楽しくなかった。練習は基礎ばかりだし、試合もB戦(二軍戦)ですら殆ど出してもらえなかった。何度も辞めようと考えたが、他にやることもなかったのでそのまま何となしに続けていた。


転機が訪れたのは七月の終わり。ある練習試合の日の事だった。

三年は既に引退していて、二年生の先輩がゴールを守っていた。その先輩が急な家の用事で来れなくなり、さらに一年のキーパーが試合の途中、相手との接触プレーで怪我をしてしまったのだ。

当時、一年生で既に身長が百八十センチあった俺に、交代キーパーとしての白羽の矢が立った。


初めての一軍での試合。初めてのゴールキーパー。だが、飛んでくるボールを恐いとは思わなかった。
それどころか初めてサッカーが楽しいとさえ思えた。相手のシュートを止めた時の味方の、『ナイスキーパー』という声が、今までの人生で一番嬉しく感じた。

その試合は結局三失点もしたけれど、自分の中で確かに何かが変わった。


次の日から真面目に練習に取り組むようになった。キーパーの練習も基礎的な事ばかりだったけれど、今までの練習と違い本当に楽しいと思った。自分が上手くなるのが何よりも楽しいと思えた。
今まで何事にも適当だった自分が、初めて努力した。
努力する事がカッコいい事だと初めて知った。


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