〈侵食〉-1
…………………………………………………
………
翌日、花恋は最悪な目覚めのまま高校へ行った。
頭がジンジンと痺れているようで上手く働かず、仲良し三人組に“ゅうちゃん”の事を聞かれても、どう答えたのか覚えていない。
更に英明と日曜日のデートの話になっても、どんな顔をしていたのか、どんな態度をとっていたのかさえ覚えていない有り様だった。
(……もう授業終わったんだ……)
気がついた時には授業は終わっており、駐輪場で敦子や玲奈と「さよなら」の手を振っていた。
玲奈も由紀も花恋を気遣うような態度ではなかった。つまり、あまり意識がなくても花恋は普段通りだったという事なのだろう。
サドルに座り、ペダルを漕ぐ……と、胸のポケットに入れていたスマホが着信を告げた……その画面には“ゅうちゃん”の名が映っていた……。
「……もしもし……」
掌に変な汗が滲むのを感じていた。
身体に叩き込まれた恐怖は、思考力に関わらずに花恋を“反応”させていたのだ。
｛学校終わったんだろ？だったら早く帰ってこい。時間潰しとかしてたら……へッ…言わなくても分かるか…？｝
高圧的に用件を伝えると、一方的に通話は切れた。
少しだけ緊張した面持ちとなった花恋は、力一杯にペダルを漕ぎだした……。
『遅いんだよ、バカ。早く兄ちゃんの部屋に行けよ』
玄関で待っていた裕樹は、汗を滲ませて帰宅した花恋を詰る。
それなりに頑張って駆けつけたのに、それでも軽口を叩かれるのは面白くはなかったが、花恋は特に反応を示さずに二階への階段を上がり、裕太の部屋へと入った。
『花恋お帰り。今日の学校は楽しかったかい？』
部屋の真ん中には、昨日まで無かった茶色いちゃぶ台が置かれており、その上にはノートパソコンが置かれていた。
それなりに広かった部屋はちゃぶ台のせいで少し狭く感じられ、裕樹まで入ってきた事で更に狭さが強まった。