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梟が乞うた夕闇
【鬼畜 官能小説】

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 先に見た男のように、あるいは彼以上に、乱壊しているのかと思ったが、ナイロンケースから姿を現した香菜子の顔は清閑としていたから安堵した。だが、あの夜ベッドの上で熱っぽく色づいていたのと比べると、肌は無垢に白く、もはや彼女に血が通っていないことをつぶさに物語っていた。
 白衣男が袋を開いていく。健やかに可憐だったバストも、先端の色素が失われて、静謐なる起伏に変わっていた。
「……っ」
 平静を保って見守っていた深雪だが、香菜子の下肢が見えてくると小鼻に白く舞う吐息を乱した。脱がせてみたら案外悩ましげな彎曲を呈した躯幹は綺麗に残されているのに、彼女の女らしい部分は、そこだけが失われて虚空となっていた。
「……で?」
 深雪は息を長く吐いて腕組みをした。香菜子を晒した白衣男は、
「さっきも言いましたが前の三件に比べたらかなり精密になってますね。ここから……」
 手袋をした指を彼女の下腹に巡らせて、「指向性を持って爆風が飛び出します。で、後ろからも。つまり、性交時の殆ど体位をカバーしています」
 淡々と説明する白衣男に対してか、香菜子に仕込まれた武器に対してか、深雪はおそらくは両方に対する嫌悪を美貌に浮かべていた。
「どうやって爆発させてるの?」
「それはわかりません。ですが、誰かが遠隔操作で発火させた、っていう可能性は低いでしょうね」
「どうして?」
「遠隔でやろうと思ったら、通信機能を持った起爆装置が必要になります。要は機械が必要なんです。ですが現場からはそんな破片は見つかっていません。有機物主体で構成して、高エネルギーな化学物質を自発炸裂させるんでしょう。ただ……」
「ただ?」
「だとすると、どうやって起爆させるのかわかりません。全部吹っ飛んでいますからね。人間一人殺傷するにはかなりのエネルギーを必要とします。そんなもんが爆発するまでは本人の体と一緒に運ばれるわけですから、爆薬物質は相当な安定構造、つまり鈍くなきゃいけない。でも、セックス中、相手が無防備になれば、素早く起爆させることができています。しかもこれだけのスペースに入る薬量で、即死させるだけの威力を持たせてるんです。……ものすごい技術であることは間違いないんですが、本人も何らかの形で関係しなければ不可能ですよ」
「何らか?」
「僕の領分を超えてしまいますけど、意図というか、意思というか……、何ていうか、爆発をすることへの彼女自身の支持、です」
 急にロマンティックなことを言い始めた白衣男だったが、真顔だった。
 深雪は下を向いた。髪の隙間から窺える横顔は、唇を噛んでいた。
「……どう? 愛する女が人間爆弾にされた気分」
 陽介の方は見ず、目線だけもう一度香菜子の下腹に空いた砲口へ向けて言った。その言葉に白衣男が片眉を上げ、
「僕、席外しましょうか?」
 さしものエキセントリックな彼も気を利かせた。深雪が軽く頷くと、外で待ってますから声かけてください、と言って白衣男が去り、二人きりになった。
「――付き合ってませんよ、俺たちは」
 重苦しく続く沈黙に潰されそうになった陽介が口を開いた。すると深雪は素早く陽介の正面に立ち、
「こっち向いて」
 と言うから、面を向けるといきなり頬を張られた。
「……本当です」
 逆側からもう一度張られた。
「香菜子はメチャクチャ惚れてたけど」
「好意を持たれていたのは知ってますが、それだけです」
「じゃ、香菜子は惚れた男がいながら、汚らしい外務職員のオッサンと不倫したってわけ?」
「……」
 三度目の打擲が襲ってきたが、だんだんと、力は抜けていっていた。
「あんたのこと好きだった女がヨソの男とヤッて死んだのに、なんでそんな冷静なの? 泣き喚くくらいしてよ」
「深雪さんは、そうしたいんですか?」
 もう一度揮いかかった手を防御された深雪は、陽介の肩へ弱く頭突きをした。そのままじっとしている。
「……必要以上に触ったら殺す」


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