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梟が乞うた夕闇
【鬼畜 官能小説】

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 前は産業国際交流推進機構という名だったらしい。事業仕分け時には某の力が働いて廃止の対象にはならず、政権が再交代した後、一旦解散して看板を掛け替えた。国際情勢に係る資料を整理分析するという名目だが、そんな仕事を一切していない。他の部門が真面目に行った成果を当機構の名義で報告させることで、うるさい市民団体の目を躱している。そういったことは配属前に聞かされていた。
「そうね、闘争華やかかりし頃は世界を股にかける伝説のエージェントだったって」
 世を忍ぶ隠密捜査を生業とするだけに、あの老人すらカウンターで有閑を持て余しているように見せて、実は組織を統率するキレモノ。だが俄に信じがたい。ああしてエロ記事に熱心に目を……、いや、新聞を開いたままコクリコクリ、寝ている。それも周囲の目を油断させる擬態だとでもいうのだろうか。
 老人を見て考えていると、深雪がふき出した。可笑しそうな笑い声とともに肩を揺らして髪をかき上げる。凛然とした深雪が一転、可愛らしい笑み声を立てたから不審な顔を向けた陽介へ、微風とともに惑わしい髪の香りが漂ってきた。
「……考え込まないでよ。どう見たってモーロクしたジイさんじゃん。高齢者雇用の一貫ってやつ? ホントにココに用事がある人が来た時、私たちが出払ってて留守だとマズいでしょ。だからいるの。てんで働かないけど」
 まだ溢れてくる笑いに声を裏返している。
 大人びた美しい女。群を抜いて優秀な捜査官。そんな深雪のあどけないまでの可笑しがりようは、先ほどの驕慢さから一転してはいても、同じく魅了されずにはいられなかった。
「ではここのトップは?」
「さぁ? 霞ヶ関か桜田門にでもいるんじゃん?」
 ふうっ、と自ら笑いを収めるように息を吐いた深雪は、「リーダーは私。言うことちゃんと聞いてね? ボク?」
 再びの上から目線。
(……ヤバい)
 俺は変態だ。なんで勃起してるんだ。
 陽介はズボンの中でムクムクと頭を上げてくる分身を、前屈みになって紙コップを持った両手を脚の上に肘付くことで隠した。
「――ここにいるのは、使えないジーサンと、か弱いワタシ。そして今日からはザセツしたエリート君だけ。早いとこ現実を認めたほうがいいよ」
「他の捜査員は?」
「今はいないかなー。連絡が取れない時間が長く続いたら、死亡認定されるの。言っとくけど、殉職扱いにはならないから、よろしくね」
「……藤倉も、ですか?」
 陽介が同期の名を出すと、からかってばかりで緩んでいた深雪の表情が幾分引き締まった。背もたれにゆったりと身を預けて溜息をつく。
「香菜子は、まだ『捜査中』。――心配? 愛するオンナが行方不明で」
「そんなんじゃないですよ」
「順調にエリートコース歩いてた奴が、自分からこんなとこへの部署替え申し出るなんて、愛の深さを物語ってんじゃん。どんな手使って上に認めさせたかは知らないけど」
 そこまで知っていて、左遷だ、とからかっていたのか。
「藤倉は一緒に特別研修受けた、ただの同期ですよ。受講番号が近かっただけです。それにここを希望したのは、官房配下の特務機関だから自分のキャリアの役に立つと思っただけです」
「……気に入らない」
 肘をついた首を傾いだまま呟いた深雪の黒目が冷たくなり始めていた。
「何がですか?」
「どっちも」
 そう言って唐突に立ち上がると、「新人君のヒアリングは終わり。時間だから」
「時間? ……何のですか?」
「初仕事」
 深雪は陽介を置いてさっさとドアへと向かい始めた。勃起は香菜子の名前を聞いていきおい収まっていた。
 出際に深雪が禿頭を平手でぶったが、それでも老人は新聞を掲げたまま居眠りをしていた。





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