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大沢商事の地下室
【SM 官能小説】

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貞操観念の果てに-3

 絢子は30歳、大沢と門村に勝手に話を決められた薬物中毒の女だ。
 元々は薬物に手を染めるようなタイプの女ではない、むしろ硬すぎるくらいなのだ。
 貞操観念、社会通念と言ったものを意識せずとも具現化しているような女、5年来付き合って来た彼氏がいたのだが、体を許したのは付き合い始めてから一年経ってから、その後も数えるほどしか許していない、絢子にしてみれば、まだ結婚していないのだから当然性交渉は持つべきではない、と言うのが当たり前、彼がどうしても、と食い下がるので仕方がなく許しているに過ぎない。

 ただ、実のところを言えば、絢子はセックスに興味がないというわけではない。
 キスされたり肩を抱かれたりすればうっとりし、彼に抱かれた時のことを思い出してしまう、経験は浅いので膣で感じるということはなく、まだ痛みも感じてしまうのだが、裸で抱き合い、彼を受け入れて一つになった時には深い愛情を感じた。
 しかし、絢子の場合、そこに至るまでの道のりが険しく遠いのだ。
 潔癖な倫理観が絢子をとてつもなく遠回りさせ、羞恥心が大岩のように行く手を阻む。
 そんな具合なので体を許すと言うのは相当な覚悟が必要なのだ。
 それでも彼は絢子を愛してくれた、欲望を抑えに抑えて辛抱強く付き合ってくれていたのだが……遂に抑えきれなくなる日が来た。
 その日はホテルに行く約束になっていたのだが、どうしても気が進まない、彼にそう伝えると不機嫌な様子になり、その日のデートは味気ないものになってしまった。
 家の近くまで送ってもらった別れ際、いきなり抱きすくめられ、スカートの中に手を入れられた時、反射的に絢子は彼の頬を張ってしまった。
「済まない」
 彼はそう言って帰って行ったものの、その後姿は寂しそうだった。
 絢子はその後姿を見送りながら自問自答した。
(彼の行動が嫌だった?)
 必ずしもそうは言い切れなかった、ドキっとして、瞬間、彼に抱かれた時のこと、その快感が頭をよぎった、立ったままバックから貫かれるイメージがパッと浮かび、そうされたい、という欲望が頭をよぎったのだ。
 だが、絢子はそんな自分が許せない、彼の頬を叩いたのは彼が許せなかったのではない、自分が許せなかったのだ。
(ごめんなさい……)
 絢子は後悔し、明日、彼に謝って改めて抱いてもらおうと思った……だがこの日の絢子の行動は決定的だった。
 彼に電話をすると、『別れよう』と言う……もう自分の欲望を抑え切れない、絢子に不快な思いをさせるだけだ、と……。
(そんなことはない、本当は抱いて欲しかったの、そう感じてしまった自分に驚いちゃっただけなの……今夜思い切り貫いて……)
 素直にそれを口に出来れば良かったのかもしれない、だが、絢子には出来なかった、女の方からそんなことは決して口にするものではない、それが絢子の常識だったから……。
 その日以来、彼との連絡は取れなくなった、携帯にも出てくれず、メールに返事はない、思い切って職場に電話してみたが、『今、忙しい』と切られてしまった……。

 失ってみて改めて彼の存在の大きさに気付かされた。

 『心にぽっかり穴があいたよう』とよく言うが、穴どころではない、心が半分失われてしまったようだ。
 その上、最後に抱きすくめられた時に感じた高揚感、激しく抱かれることへの強い思いが失われた心の半分にぽつんと、しかししっかりと根を張っている。
 
 そんな折、街で偶然彼を見かけた。
 彼は見知った顔の女と歩いていた、普段、絢子が嫌悪感を持っている『お盛ん』で知られている同僚……彼の腕は彼女の腰を抱き、彼女の胸はぴったりと彼に押し付けられている、そしてとっさに物陰に隠れて見守る絢子に気付かないままホテルに消えて行った……いつか彼が戻ってくれるのではないか、と心の片隅に抱いていた絢子の思いが完全に砕け散った瞬間だった。


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