悲しい傷跡-6
医院の裏口にワゴンが止まっていました。
「おおい、こっちだ。……早く乗れよ」
裏口とはいっても人通りが多く、大声に歩いている人が一斉に私の方を振り向きます。
顔が熱くなって、駆け込むようにワゴンに乗り込みました。
ワゴンには撮影の機器がたくさん積んでありました。
「いよぉ、姉さん。……よろしくね。
院長から話は聞いているよね。
さあ、これから一気に五本は撮っちゃうからね。
とりあえず、堕ろした後だってことなんで、最初は生は無しってことは院長から念を押されているんで……」
撮影現場に着くまでに、監督からストーリーを聞かされました。
どれも酷い話ばかりです。
例えば、会社帰りのＯＬが家に着く直前に、車に拉致され、数人でレイプされ、その後、その男達の奴隷となって尽くすとか、新婚の人妻が、夫の借金のかたに身体を次々男に与えるといった内容ばかりです。
私は来る日も来る日も男達に抱かれました。
身体中のあらゆる口に男を受け入れ、男の精をたっぷり注がれる姿をカメラに収められました。
男を受け入れないときは、浣腸され、縛られ、むち打たれ、放尿させられ、潮を噴かされました。
やがて、中絶後の初めての生理が訪れましたが、ナプキンの交換やタンポンの交換の様子など、撮影隊はそれすらビデオに収めていったのです。
そして生理中なのに男を受け入れました。もちろんその時は生でです。
男の精と女の精が混じってピンク色の滴が垂れてきたときは、現場で拍手が上がりました。
三か月で五本分のビデオを収録しました。
その結果、私の身体はボロボロになりました。
お尻の穴はすり鉢状に大きくへこみ、秘裂をやさしく覆っていた二枚の花弁も、金のリングで引っ張られているうちに長く厚く伸びてしまいました。
もちろん膣口は、昔の面影はありません。周りが醜く、外側にめくれています。股を開いただけで、ポッカリと大きな口を開けているのがわかります。
膣口のすぐ上の尿道口も小指が入るくらいに拡がってしまいました。
クリトリスはいつも露出しているので、表面の粘膜がカサカサして厚くなってしまいました。
乳首にもピアシングが施され、やはり、金のリングがはまっています。
半分やけになった私は、十八本のＤＶＤと七本の無修正ＤＶＤに出演したのでした。
なかでも極めつけは、「美少女がＳＭの限界に挑戦」というタイトルのシリーズのＤＶＤでした。
内容は、赤、黄、黒、緑、青など七色に染められた下剤入りのバリウムを次々呑んで、七色の便を連続的に排出できるかとか、浣腸した液をどのくらいの高さまで噴き上げられるかを階段状に並べた火のついたろうそくを消すことで調べるとか、クリトリスを擦り、絶頂に導くが、その絶頂寸前で止めることを繰り返して、愛液をコップ一杯にするのに何分かかるかを調べるとか、空の一升瓶を用意し、膣で締め付け、何メートル運べるかなどなど、この上なく下品で想像を絶する企画でした。
でも、結局これが私のベストセラーになったのです。
私の医院で受けたいくつかの責めと慰みは、いつのまにか無修正ＤＶＤになって、多くの人が購入していました。
それには、「美少女性器１４号」というタイトルがつけられ、いまでも通販で売られています。六人の夫婦とスワップパーティをするところから始まり、浣腸、剃毛、潮吹きと続き、最後は私の性器が余すとこなく写され、１４という数字の入れ墨がアップになって終わるというものでした。
さて、撮影のロケ先で、テレビを見て驚きました。
退院した患者が院長を殺害し、逃走したのだそうです。
私が退院して二週間くらい後のことでした。
だれが殺害したか、どこへ逃走したかはわからない、殺害の目的がよくわからない謎の多い事件だと報じていました。
私には殺人者がだれだかわかっています。彼女がうまく逃げ通せることを祈りました。
院長が死んで、あの病院は閉院しました。
私がもう少し遅く堕胎を考えたなら、別の病院にいったことでしょう。
私は、人間の運命を呪いました。
私の身体に残された、１４という入れ墨、クリトリス周囲へのシリコン注入、乳首と秘唇への金のリングのピアシングという元に戻らないものを見る度に、いつも怒りと悲しみを覚えます。
結局、私はこの出来事があって、会社を辞めることになったのですが、ＡＶへの出演で得たお金で、これからはもっと悪く強く生きていくことにしたのです。
もっとすてきな生活がしたい。もっとお金が欲しい。もっと男と遊びたい。華麗にスマートに生きていくことを、このときに決意したのです。
華麗なる変身 完