下-2
「なんか色々分からなくなっちゃって」
「分からなくなったって・・・俺と付き合うのが?」
こんないい天気に、仕事をさぼって海に来たのに。
話している内容はなんだか冷たい。
「仕事を無理してまで、朝同じ電車で行く意味はないような気がするけど。
それでもあの2分は私にとって、とっても大事な時間で。
矢野さんが私に内緒で無理をしていたのも
今後ずっと続く訳はないと思うし。
そーゆーのって、秘密にしていてこの関係は続くのか不安になったり」
「うん」
「いつの日か、矢野さんがあの電車に乗ること自体が
負担になるんじゃないかと思ったり」
「うん」
「色々考えるのに、時間が欲しかったんです」
風は秋風だった。
日差しも、ギラギラではなくなっていて。
今年もすっかり秋になった。
「さくらは、俺の事よりそれを言った女の子たちを信用したんだ?」
『女の子』に聞いたなんて一言も言ってないのに。
「トイレだろ?帰って来てから変だった」
「・・・・」
「あいつら。余計なことを」
矢野さんは爽やかなイメージとは程遠く、小さく舌打ちした。