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離婚夫婦
【熟女/人妻 官能小説】

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義母-3

 紀夫からも同じことを言われた。
 大人は何かする時に自分で選ぶことが出来る。しかし、子供は選択肢を与えられない場合が多い。
 今回も、菜緒が離婚されるのは嫌だと思っても、結論が揺らぐことは無かったはずだ。決まったことに従うしか菜緒に与えられた術はない。

 10分くらいと聞いていたが、5分少しで病院に着いた。
 紀夫が入院している病院は、思っていた以上に大きかった。大学病院の分院だそうだ。
「大きな手術とかになると、この辺じゃここしかないのよ」
 紀夫の住む街にはそれなりの総合病院もあり、簡単な手術なら対応できるようだが、長時間かかるような手術や難しい手術になると、大抵この病院を紹介されると言う。
 駐車場から玄関まで歩いて5分近くかかる。それだけ大規模な病院だ。
 紀夫の入院している病棟は6階にある。手慣れた感じで受付申請をする百合子の後に続きエントランスを抜ける。
 見渡すとメジャーなコンビニエンスストアがあり、入院患者や見舞客たちで賑わっている。
 昔は売店が主流だったのに、今では普通のコンビニが病院内に出店しているケースも多いらしい。
(便利になったもんだな)
 20時までの営業だが、入院患者にしてみれば24時間営業している必要はない。入院していても、普段と同じ買い物が出来ることを考えれば、売店より便利なことは明白だ。

「この時間だと、部屋から出て面会スペースで本を読んでいるのかしら」
 ある程度の入院期間を過ぎ、一日の流れが平準化してくると、必然的に暇な時間が出てくる。以前であれば、本や雑誌などを読んで時間を潰すことが一般的だったのだが、最近はスマートフォンを相手に、ゲームやらSNSやらに興じている者が目立ってきた。若者だけでなく、中年以上、中には高齢者でもスマホで時間を潰す者がいるくらいだ。
「お父さんは、ああ見えて歴史小説好きなのよ。司馬遼太郎とか海音寺潮五郎とかの文庫本を何冊も病室に持ってきているのよ」
 エレベーターで6階に着くと、目の前に大きなナースステーションがあった。
 百合子は顔見知りになった看護師に一言二言声を掛け、面会スペースに向かって歩き出した。
「やっぱり面会スペースにいるみたい。今日は点滴が無い日だし、一日中本を読んでいるみたい。ここの面会スペースはとても陽当りがいいの」
 なんだかんだ言いながらも紀夫と面会する百合子はにこやかな笑顔が自然に出ている。
 これも長年連れ添ってきたからこその関係性なのかもしれない。
 一番奥の日当たりの良い一角に紀夫がいた。

「お父さん、晃彦さんが来てくれたわよ」
 瞬間、ピクっと反応したように見えた。
 ゆっくりと顔をあげ、老眼鏡を外し、読んでいた文庫本をパタリと閉じた。
「ばれたか」
 含み笑いするように言葉を発した。
「悪かったな。隠すつもりは無かったんだが・・・・・・結局は隠していたのと一緒か」
 『まあ座れと』目配せを送る。
「お茶でも持ってきましょうね」
 豊川はそのまま椅子に腰掛けたが、百合子は病室にペットボトルのお茶を取りにいった。
「すまなかった。何べんも電話やメールをもらっていながら、全く返さなくて」
「いえ。ただ、心配になってきたので、何とか連絡が取れればとは思ってました」
「そうか・・・・・・俺も葛藤していてな。聞いただろ?母さんから」
「はい。だいたいは」
 義母の言った通り、紀夫自身も病気に対しナーバスになっていた。苦しみを誰かにぶつけることも出来ず、これまでのように強い人間であることを取り繕っていたのだ。
「僕じゃあ役不足でしたか?」
 少し強気に投げ掛けた。
「ハハハっ、大きく出たなこの野郎」
 紀夫は背もたれから頭を大きくはみ出させ、周りの目も気にせず笑った。
「そういうわけじゃない。これは俺自身の戦いだ・・・・・・と思っていたんだ。最近は母さんも色々と気遣ってくれてるのがわかるようになったし、そろそろお前さんにも連絡しようかと思っていたんだよ」
「ちょっとお父さん。むこうまで笑い声が聞こえてましたよ。病院なんだからちょっと抑えてくださいな」
 そうは言いながらも、百合子は嬉しそうだった。おそらく昨日までは、もっと苦虫を噛み潰したようなしかめっ面だったんだろう。
 今までにない険しい顔の夫を見ているのがどれだけ辛かっただろうか。
「このことは望未には言ってないんだろ?」
「ええ。知っているのはこの3人だけです」
「そうだな。望未には口外しない方がいいだろう。あいつはあいつなりに考えるだろうからな」

「晃彦さん。本当にありがとう。久しぶりに柔らかいお父さんの顔が見れたわ。感謝します」
 車に乗る早々、百合子は感謝の意を表した。昨日までの苦しさが、少しは良い方向に向かい始めたことで、紀夫の顔から険が取れたのだと言う。
「そんなことないですよ。これまで親父さんから受けた恩をほんの少しだけ返しただけですから」
「これで私も少しは気が楽になったわ。癌って聞いた時は頭の中が真っ白になっちゃって。手術の時は何とか成功してくれと手を合わせっぱなしだったし。手術も無事終わって、転移も無いとわかって喜ぼうかと思ったら、毎日渋い顔してるから何か溜まってるんだろうなと思うと、喜ぶに喜べなくて」
 義母も戦っていたのだ。医療的に問題が無くても、気持ちが快方に向かわなくては意味が無い。そんな状況で、腫物を触るように慎重に義父と過ごした日々の心労はかなりの負担であったはずだ。
「あとは、再発したり転移したりしなければいいんだけど」
 胃癌の5年生存率は、紀夫のケースだと比較的深刻な数字ではないようだ。
 それでも転移はいつ襲ってくるかわからないと釘を刺されているし、完治というお墨付きをもらうまでには、まだまだ長い戦いが待っている。
 でも、今日はひとつの良いきっかけとして一区切りになったのは間違いなさそうだ。


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