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離婚夫婦
【熟女/人妻 官能小説】

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義母-2

 約束の日、豊川は紀夫が入院している病院の最寄り駅に降り立った。
 駅前のコーヒーショップで待ち合わせになっていて、約束より15分ほど早く着いたが、店で待っていようと店内に入ると、既に義母が座ってコーヒーを飲んでいた。
 百合子も豊川の姿に気付き、軽く手を挙げた。
「ご無沙汰しています」
 直接面と向かって会うのは、6年近くになるだろうか。
「この間電話で話したから久しぶりって感じはしないけど、もう何年になるかしらねぇ。その節は望未がご迷惑をお掛けいたしました」
 望未との離婚の顛末を聞き及んでいるのだろう。豊川への批難は一切せず、我が娘の不徳を恥じているのか、逆に謝罪の言葉をもらった。
「いえ僕のほうこそ裏切るような真似をしてしまって、本来なら顔向けも出来ない所です」
「変な言い方だけど、お互い様っていうか喧嘩両成敗。却って、女のくせにたしなみってものが欠けていたのは望未の方ですから」
 紀夫も言っていたが、「女であるにもかかわらず」の感情が非常に強い。それだけしっかりとした躾や育て方をしてきたとの自負もあるのだろう。
 古式ゆかしき時代はとうの昔に崩壊している。今では不貞を戒める者など時代遅れもいいところだ。周りを見れば不倫だらけ。男だって女だって関係ない。
 ただ豊川たちの親世代は、まだまだ当時の感覚でモノを言う。人格形成には特に力を入れてきたと胸を張る倉田夫婦にしてみれば、娘がしたことは不貞以外の何物でもない。
「それよりもわざわざどうもありがとう。お父さんたらああいう性格でしょ。こうだと思ったら他人がとやかく言う隙もありゃしないんですから」
「で、病状はどうなんですか?」
「それがね、一応胃を全部取るってことになって、大きな話になってるけど、胃癌でも胃の上の方で見つかると、全部取るのが一般的なんですって。でも実際には転移もしていないし、すぐにどうなるってことは無いって言われてるんだけどね。ただ気持ちがね、『癌』って聞いちゃうと、やっぱり悪い方に考えてしまうのよ」
 癌は普通の病気に比べて死に近いものではあるけれども、以前に比べれば不治の病ではなくなってきている。もちろん、発症した部位によっては生存率に差が出てはくるが、胃癌も部位とステージによっては比較的長期の予後が望める。
 今回の紀夫のケースも、念を入れて放射線治療や化学治療を行うだけで、目先の生き死にに発するものでは無い。それでも義父にとっては、死刑宣告を受けたも同然らしく、日々の張り合いが極めて落ちているようだ。
 意欲的にこなしていた防災コンサルタントの仕事も、一時的に休職という形で

「でも、僕が出しゃばってしまってもいいんですか?」
 百合子からは、近いうちに一度、紀夫に面会しに行って欲しいと言われた。
「何とかお願いできないかしら。何を言われても私のせいにしてかまいませんから」
 百合子がここまで言うからにはよっぽど紀夫もまいっているのだろう。
「もしあれだったら、これから行ってもいいですよ」
 今日は土曜日で特に予定もない。この後見舞いに行ったとしても、そんなに遅くはならないだろう。
「あら、いいの!?少しでも早い方がお父さんも楽になれるだろうからそうしてくれると助かるわ」
 入院している病院は、ここから車で10分程度の場所にある。路線バスや、市の運営する循環バスも通っているので、アクセスにはさほど苦労はしない。
 今日は百合子が車で来ているので、豊川も一緒に乗せてもらうことにした。
「ああ見えてね。けっこう気にする人なのよ」
 警察官時代の何事にも動じない泰然自若としたイメージが強かっただけに、少し意外な気もしたが、自分の命に関わることでも微動だにしない人間なんてそうそういないし、紀夫だって死への恐怖が無いはずが無い。
 病気の様に次第に病魔に蝕まれる場合はより一層、その様な気の持ちようになってしまうと思う。逆に警察官時代の方が、銃弾や刃物などによる受傷を想定し、死に対しての免疫が強かったのかもしれない。
「お父さんも普通の人間だってことよ。みんな強い人だって言っているけど、そんなことないわ。誰だって弱い部分があるの。お父さんだって例外じゃないのよ」
 質実剛健を地で行き、周りからも慕われていたことが、いつの間にか弱いところは見せられないと自分でも気を張ってしまうようになっていたのだろう。
「長く連れ添っていれば、その人の本質なんてものは自然にわかっちゃうもの。お父さんだって人が言うほど強くはなかったのよ。特にけっこう細かいことを気にするようなところもあるから、病気になるとその辺が気になっちゃうんでしょうね」
 長年一緒にいると勝手に分かってしまうものなのか、短くても相手を理解する努力があれば通じるものがあるのか。豊川は恐らく前者なのだろうと思った。
 長い時間の積み重ねによって、勝手に相手が理解できるようになってしまっている。これは相手をリスペクトしていなくても、自然にそうなってしまうようにできているのだ。
 果たして自分たち夫婦はどうだったのだろうか。望未とは十数年一緒に暮らしてきた。その期間が長いか短いかは別として、お互いをどこまで理解していたのだろうか。義母の含蓄ある言葉に豊川は自問自答していた。
「娘もね、そういう風になって欲しい。なってくれるに違いないって、勝手に思い込んでいたのよね。なのに、ああいう結果になっちゃって・・・・・・ああ、ごめんなさいね、別に晃彦さんを責めてるわけじゃないのよ」
 豊川は何だか心の中を見透かされたような気がした。
「いえ。あれは結果どうあれ、自分の非から起きたことです。申し訳ありません」
 助手席に座った豊川は、運転する百合子の方に身体を向け頭を下げた。
「そんなことありませんよ。悪いのは望未も一緒。お互いに反省してもらわないと。一番割を食ったのは菜緒なんですからね。そこだけは忘れないでちょうだいね」


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