J-4
「あ、おはようございます」
相手は昨日の挨拶の時、私が誰なのかはっきり分かっていたらしく
横浜駅の柱に寄り掛かって―――たぶん私を待っていた。
そのまま2人で人の流れに身を任せるように乗車して。
隣のつり革なんか持ったことがないのに。
自然に隣に並んで立った。
「昨日はビックリしたよ」
「すみません」
恥ずかしくて、うっすらと顔が赤くなるのが自分でも分かる。
「一瞬誰だか分らなかった」
私は今まで分かりませんでしたっ!
「あれってさ?ナンパだと受け取って良いんだよね?」
え?
恥ずかしさも忘れて、今度は私が彼を凝視した。
「あ、あの」
間違いでした、と声に出ない。
ナンパのフレーズに、車内の周りの人たちも耳を澄ませているのが分かる。
「はい。名刺」
思わず受け取ったその名刺には
有名な会社名と名前があった。
「横浜ホールディング・・・」
「あ。知ってる?」
日本人で知らない人はいないと思う。
横浜からたった2分のその1駅は、会話をするにはあまりにも短くて。
あっという間に、また人の流れのままに下車した。