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アダルトビデオの向こう側
【熟女/人妻 官能小説】

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5.事件-2


 実際香代の出演作品『カヨコ――犯される人妻』シリーズは爆発的に売れていた。DVDの制作販売を手がけるAVメーカー『クリエイト・えろす』のドル箱的存在で、シリーズの作品数はすでにAV界では異例の30本を超えていた。相手の男優の演じる職業も警察官、教師、消防士、医師、政治家、土木作業員など多岐に亘り、カヨコがそれらの男たちから言い寄られ、時には縛られ、また時には優しく落とされて犯されるシチュエーションがファンにはたまらない魅力となっていたのだった。
 そのシリーズのネットの販売サイトに掲載されたレビューには、犯されて抵抗するカヨコが見せるリアルで切なげなまなざしと、それ自体が女体を愛撫しているような官能的で優雅なカメラワークが絶妙にマッチしていて昂奮度が高い、と書き連ねられていた。

 多くのファンたちは、カヨコの別のシリーズにも惜しげなく手を伸ばしていた。この三年間で制作されたのは、夫に秘密で愛人をもうけ、その男と一泊の旅行で濃厚に愛し合う、AVにしては旅情豊かなストーリー性の高い『カヨコの不倫旅行』シリーズ、街や観光地で誘惑した男を睡眠導入剤で眠らせ、ホテルで逆レイプするサスペンス仕立ての『魔性の人妻カヨコ』シリーズの二つ。
 これらの三つのシリーズはそれぞれ描かれる物語の傾向やシチュエーションがかなり違うものだったが、いずれもカヨコが主演、カメラが姫野拓也という組み合わせというだけで間違いなく売れた。『クリエイト・えろす』にとっても黒田にとっても、この女優とカメラマンの二人は絶対に手放したくない人材なのだった。

 しかしカヨコを演じる香代は、三年以上経っても撮影で気持ちよくなることは皆無だった。それなりに演技力はついたが、どんな男優に抱かれても、どういうシチュエーションの台本を渡されても、身体は熱くならなかった。それでもこれまでAV女優としてやってこれたのは、それを仕事だと割り切り、無意識に感情や身体の反応を抑えることを覚えたからだと香代自身は思っていた。全ては夫の残した借金を返済するために……。
 ただ、拓也が操るカメラを見つめる時、演じる香代は図らずも自分の境遇や運命を思い、自分でも気づかないうちに切ない表情になってしまっているのだった。たとえお互いに愛し合う男との情事のシーンでも、自分が落とした男を逆レイプする場面でも、カヨコは決まって哀しく、切ない表情をしながらクライマックスのシーンを迎えるのだった。多くのファンはその陰りのあるカヨコの表情を『カヨコ・フェイス』と呼び、持てはやしていた。しかし演じている本人の香代は巷の男たちがそういう自分の顔を見ていたずらに昂奮していることを思う度、ひどくやるせない気持ちになるのが常だった。


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