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アダルトビデオの向こう側
【熟女/人妻 官能小説】

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5.事件-1

 10月。街路樹の銀杏は黄色と緑のまだら模様にその葉を染めている。時折吹く風はすっかり熱気を失い、美容室帰りの香代の頬に心地よさをもたらした。
 香代が家を出てから三年半が経っていた。アパート暮らしの香代の元に、拓也は毎日決まって夕食後に訪ねて来てくれた。
 香代の同居人リカはよく口にした。あんたたち一緒になれば? と。しかし、拓也はそれまで一度も香代の部屋に泊まったこともなければ、香代を連れ出してどこかで夜を過ごしたこともなかった。

「好きなんでしょ? 香代さん」
 リカは缶ビールを飲みながら気だるげに言った。
「たぶん」
「何が『たぶん』よ。好きでもない男が毎晩やって来るのを嬉しがる女なんていないわよ」
「そうね。きっと好きなんだわ」
 香代は皿に載ったナスのしぎ焼きの一切れを箸でつまんだ。
「拓也はプロポーズしてくれたりしないの?」
「まだそんな段階じゃないわ」
「もう深い仲なんでしょ?」
 香代は首を横に振った。
「違うの?」リカは少し驚いて言った。
「手を握ってくれることは時々……」
「信じらんない」リカは思わずビールの缶を口から離して叫んだ。「だって、あんたたちが出逢ってもう三年も経ってるのよ? 最初から拓也に惚れてる風だったじゃない、香代さん」
「惚れてたってわけじゃ……」
「香代さんが許さないの? キスも? 撮影ではもう何人も男とベロチューしたりナニを咥え込んだり、繋がって中出しされたりしてるのに? 信じらんない!」
「でも、私と拓也君の関係はそうなのよ」
 香代はナスの一切れを口に入れた。
 リカは呆れてしばらく香代の顔を見つめていた。

 缶に残ったビールを飲み干すと、彼女はそれをテーブルに置いて言った。
「ま、いっか」

 しばらくしてリカは、茶碗蒸しをスプーンですくいかけた手を止め、彼女らしくないため息をついて低い声で言った。
「あたい、そろそろ潮時かなって思ってる」
「え?」
「30も過ぎたし、こんな仕事ずっと続けられる気がしないよ」
「そう……よね」
 香代はうつむいた。
「実はね、」リカがテーブルに身を乗り出して言った。「香代さんにはずっと内緒にしてたけど、あたい、黒田の愛人なんだ」
 香代はびっくりして目を上げ、思わずリカの顔を見た。
「あんたがここに来て三か月ぐらい経った頃だったかな、いきなり言い寄られてさ、一回につき5万円くれるからあたいもずっとあいつに抱かれてる」
「そうだったの……」
「ちっとも良くないんだよ。全然感じない。しかもあいつでかいから上に乗っかられると苦しくて息ができなくなるほど。まあ、そこ30分ぐらいで終わっちゃうし、もらえる小遣いに釣られて続いてるようなものね。でも、最近あいつ減額し始めたんだ」
「減額?」
「先週は3万円しかもらえなかった」リカは自嘲気味に笑った。「あたいの仕事もめっきり減ってきたしね。もう以前みたいに売れなくなったんだよね、あたしのAV。だからこの仕事自体が嫌になってきたってことかも。わかるでしょ?」
「……」

 茶碗蒸しの中から掘り出した銀杏を口に入れて、リカは言った。
「ところで香代さん、もうずいぶん返せたんじゃない? 例の借金」
「そうね、こないだ林さんに訊いたらだいたい150万ぐらいになってるって仰ってたけど」
「はあ?!」
 リカは大声を出した。
「ちょっと待って、香代さん、あんたの今のギャラは20万だって聞いたよ? その6割のうちの半分をあいつに渡して黒田に返してもらってるんじゃないの? それに、DVDが売れればその利益の一割が上乗せでもらえるんでしょ?」
「そうだけど……」
「めちゃめちゃ売れてるらしいじゃん、あんたのDVD」
「そうみたいね」
「なによ、あんまり嬉しそうじゃないわね」
「なんか……自分がいやらしい男たちの慰み物になっているかと思うと、なんかね」
 リカは心底呆れたように言った。「香代さん、あんた根っからAV女優には向いてないわ」


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