投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

離婚夫婦
【熟女/人妻 官能小説】

離婚夫婦の最初へ 離婚夫婦 13 離婚夫婦 15 離婚夫婦の最後へ

菜緒-1

 金曜の午後、豊川は客先からほど近い市役所に重い足取りで向かっていた。
 この日、朝から豊川の足取りは何となく重かった。理由は二つある。
 一つは、今向かっている市役所に関係する。望未との離婚協議がまとまりつつあり、いよいよ本格的に事務的手続きに入る準備を始めることになった。
 まずは離婚手続きの肝となる『離婚届』を手に入れなければならない。その様式を受け取りに向かっているためだ。
(こんなに憂鬱になるもんだとは思ってもみなかったな。菜緒のことはあるにしても、ようやく言い争いの無い生活に戻れると思っていたけれど、いやいや離婚ってのはこれほどまでにパワーが必要だとは思わなかったな)
 自分の籍がある市役所でなくても、役所であればどこから入手してもかまわないということだったので、知り合いなどの目が気になることもあり、仕事途中で行けて、自分とはあまり接点の無い市町村で手に入れようと考えた。
 パソコンで駅から徒歩で行けて、尚且つ得意先が近くにある役所を探す。出来れば自宅に帰る方向にあればベストだ。一件だけその条件に合致する客先があった。

 さほど重要な得意先ではないが、客先フォローも兼ねて年に2、3度訪問はしている。今回も特にこれといった案件があるわけではないけれども、『近くに行くので顔を出したい』と伝えると、喜んでアポイント依頼を受けてくれた。豊川はそういった得意先を数多く持っている。
 最近は、通信機器の発達により、メールなどの電子媒体だけでやり取りすることも少なくなくなってきた。しかし、豊川は出来る限り対面して商談することにしている。
 これまで、就職後初めて付いた上司の教訓である『営業は足で稼げ』を愚直に実行してきた。その結果、社内では比較的若い年齢で営業所長代理にまで昇進したことは、教訓が間違いでなかったことの証明と言える。近年の通信機器の変化によって変わりつつある営業スタイルだけれど、豊川自身定年まで足で稼ぐスタイルを変えるつもりは無かった。
 この得意先は、元々豊川が開拓した会社でもあるし、キーマンである担当部長も旧知の仲だ。久しぶりの訪問でも歓迎してくれ、取引開始当時の懐かしい話を交えながら、1時間ほどの商談は終わった。帰る際には『久々に飲みに行こうよ』とも誘ってくれた。
 嬉しい気持ちで、客先の門を出たが、すぐに憂鬱な気持ちに支配された。
 これから離婚届を取りに行かなければならない。望未との夫婦関係は完全に破綻していて、修復など考えられない。しかし、いざ離婚となると気持ちが晴れやかにはならなかった。

 清々する離婚もあるだろう。もしかするとそういったパターンの方が多いのかもしれない。離婚のきっかけとなるお互いの異性問題。いわゆる『W不倫』というやつから発した離婚騒動。感情をぶつけあいながらの離婚協議は、双方歩み寄った沈静化には向かうはずもなく、結局離婚という決着になった。
 足取りが重くなるのは、ことの顛末を娘の菜緒に伝えなければならないからだ。そのことを、今日伝えることになっていた。
 週休二日制の豊川の会社は、明日明後日と休みになる。普段は、奈津美と出掛けたりすることが多い週末だが、今週は、何が何でも家に帰らなくてはならない。

 今回の離婚協議の中で、一番神経を使ったのが菜緒のことだ。これだけは夫婦揃って気にしていたこと。
 親権については、話し合い最初のうちは、菜緒に任せようかという話も出たが、言っても菜緒はまだ小学生。彼女の判断に委ねることは、かなりの心の負担になってしまう。そんなことから、彼女にとってより良い環境にするためにはどうしたら良いのかを時間を掛けて話し合ってきた。
 金銭的には、ほとんどの家庭の場合、男親と暮らす方が断然有利になる。豊川の場合も、それなりの給料は貰っているから父方と暮らした方が金銭面では心配が少ない。望未はピアノ講師としてけっこうな実力は備えているものの、それが給与に適正に跳ね返るかと言えばそうはならない。
 今現在もパートのピアノ講師として働いてはいるが、その収入だけで菜緒を養っていくのはまず困難。もし、フルタイムで働くにしても職業柄安定して収入を得られるかというと、かなり厳しいのが現実だと言わざるを得ない。それ以上に、そこかしこで募集があるような仕事でもないのだ。多くは、ツテを使って働くのが普通だと聞いたことがある。

 ピアノ講師の世界では、シビアな序列が存在しているらしい。どんなにテクニックに優れ、素晴らしい才能があっても一流の音大を出ていなければ、評価されにくい。コンクール入賞などの実績があれば別だが、普通は出身大学で左右されてしまう。
 裏を返せば、才能があれば一流大学に進んでいるはずだということになる。能力の高さ=音大のレベルという図式が出来上がっている世界である。
 望未は、一応名の通った一流大学の出身。そういった意味では、まず第一のハードルはクリアしていると言ってもいいだろう。募集さえあれば、ある程度優位に進めることもできるはず。
 望未は実家近くで生活をしていく方向で検討している。両親(豊川からみると義父義母)も健在だし、介護などの必要も今のところ無い。色々な部分で、ある程度の援助も受けられるだろう。
 この離婚話は、それとなく伝えているようだが、確定するまでは正式に伝えるつもりはないと言う。
 両親への報告は、また別の問題として残ってはいるが、結果論になってしまっても何らかの形で報告しないわけにはいかないだろう。
 望未の実家だが、3姉妹で望未は2番目。長女は北海道に嫁ぎ、こちらに戻ってくることは考えていないようだ。末の妹が30半ばになるのだが、未だに独身で実家暮らし。そんなこともあって、実家で一緒に生活をすることには少なからず抵抗があるようなことを言っていた。
そのような実家の事情を踏まえて、実家から協力を得るのに苦にならない程度の距離で生活したい意向のようだった。


離婚夫婦の最初へ 離婚夫婦 13 離婚夫婦 15 離婚夫婦の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前