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離婚夫婦
【熟女/人妻 官能小説】

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菜緒-2

 協議の結果、菜緒は母である望未が親権を持ち、一緒に暮らすことになった。
 義父の口利きと、古い友人のツテで音楽教室の仕事のあてもあるらしく、実家付近で生活基盤を築く方向で考えていると聞いていた。
 もし、その音楽教室での仕事が決まったにしても、給料はさほど高くないだろう。雇われの身としては、保険料や年金などの社会保障は最低限保証されるが、実質の実入りは厳しいはずだ。
 それならば、個人で音楽教室を立ち上げれば良い話だが、生徒の確保、運営スタッフの人件費など、それはそれでハードルは高い。
 どちらにしろ、ピアノ講師として生活していくためには、ピアニストとしての才能だけでなく、経営的な資質も必要とされる。
 豊川も、それをわかっているからこそ、それ相応の金額の養育費を出すことを提示したつもりだが、望未は頑なに拒否をした。
『原因は互いの不倫である』と主張して譲らない望未は、自分だけがイイ子になるのが許せないのだろう。
 ピアノを中心とした生活で、音大という少し特殊な環境下で育った望未にはそれなりのプライドがあることは豊川も気付いていた。
 高飛車というほどの高圧性はないけれども、所々でプライドの欠片が見え隠れはしていた。それもあって、身から出た錆を元夫や両親にフォローさせることが許せないのだろう。出来る限り、自立して生活を送っていきたいのが望未の考え方だ。
 だから、最初の申し入れはにべもなく拒否された。豊川もカワイイ一人娘に金銭的不自由をさせたくはなく、月10万円という一般サラリーマンにしては高額な養育費を申し出たのだった。望未から不満が出れば、もう少し色を付けてもいいと思っていたぐらいだが、逆に拒否された。
 最終的に月5万円で決着したが、望未は最後までどこか腑に落ちないといった表情であったのが印象的だった。

 菜緒に切り出すのは、夕食後にすることにしていた。
 いつも通りの夕食の席だったが、何か違う嫌な雰囲気であることが手に取るようにわかった。
 当たり障りのない会話でお茶を濁したが、違和感は拭えない。第三者が見たならば、恐らく異様な食卓に映ったことだろう。それほどまでに重苦しい雰囲気だった。
「ごちそうさま」
 普段のように、夕食が終わりテレビを見ようと席を立つ菜緒。
「菜緒、ちょっと話があるの」
 望未が意を決して声を掛けた。
「見たいテレビがあるの・・・・・・」
 菜緒は何か悪い話なんだと勘付いているようだった。
「菜緒。こっちに座ってくれないか」
 豊川も神妙な口調でお願いする。
 既に何かを察知しているかのようで、渋々と自分の椅子に座る菜緒。少しの間沈黙の時間が流れた。
 望未の目配せで、豊川が重い口を開く。
「今日は大事な話がある」
 豊川の第一声に、菜緒は口を真一文字に結びうつむいた。
「実は、パパとママは離婚することになった」
 事実をストレートに伝える。瞬間菜緒の身体が、硬直したように見えた。豊川も辛い瞬間だったが、菜緒の気持ちを考えれば、そんなものは比較にならない。
「ママと一生懸命話し合ったんだけど、このまま一緒に暮らしていくのは出来ないってことになった」
「菜緒ちゃんは、ママと一緒に暮らして欲しいんだけど、どう?」
 親権を持つことになる望未の口から、菜緒に同意を求める。
「・・・・・・」
 菜緒はうつむいたまま無言を通す。
 確かに、今まで幸せな家庭の中で生活してきた菜緒にとっては、思いもよらぬ通告のはずだ。小学校高学年ともなれば、離婚の意味することは十分に分かるはずだ。事の重大性は幼いながらも理解していることだろう。
 うつむいたままなので、なかなか表情が見えないが、身体全体が強張ったようにプルプルと震えているようだった。
「菜緒ちゃ」
 望未が返答を引き出そうと、菜緒に声を掛けようとするのを、豊川は制止した。
 小学生ながらも彼女は彼女なりに考えているのだ。もがいているのだ。今でも泣き出したい気持ちを抑えて言葉を振り絞ろうとしているのだ。
 これから訪れる母子家庭生活は、今までの家庭生活よりも苦労が多くなるだろう。だからこそ菜緒が自分で考えて行動することが重要になる。こういった場面でそれを実践することになろうとは、親としては不本意だがきれいごとばかりでは片付かない。
 親も、子供が辛い決断をしなければならない姿を見届け、その苦痛を共有しなければならない。親の勝手で子供の心が引き裂かれることがどれだけ辛いものなのかを胸に刻み込み、自分自身猛省するべきである。
「・・・・・・悲しい」
 どのくらい沈黙の中待っただろうか、か細い声で菜緒が言葉を発した。
『悲しい』。それはそうだ。家族というものは男親、女親が揃って初めて子供も安心して生活できる。日本国内の離婚率が年々上がっているということは、それだけシングルファザー、シングルマザーが存在していることになる。それぞれに幸せではあるだろうけれど、不幸も味わっているはずだ。
 菜緒も父親がいない生活になる訳だから悲しいのは当然。
 しかし、それに続く菜緒の言葉に、二人は驚きと後悔、猛省を促されることになる。
「ごめんね。話し合ったんだけど・・・・・・」
 望未は涙を浮かべ、菜緒に謝った。
「違うの。パパとママが話し合っていることを私に教えてくれなかったことが悲しいの」
 豊川は衝撃が走った。
「もし、私にもそのことを話してくれていたら、何かできたかもしれなかったのに・・・・・・」
 何ということだ。菜緒は、自分自身の悲しみを嘆いていたのではなく、自分が離婚の歯止めになれたかもしれないのに力になれなかったこと。この家族の一大事に、自分が家族の一員としてその輪に入れなかったことを悲しんでいたのだ。
 豊川は顔から火が出るほど恥ずかしかった。幼い菜緒が、自分の悲しみをよそに夫婦のこと家族のことを心配してくれたことに気付けなかったからだ。


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