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君が泣かないためならば
【女性向け 官能小説】

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そんな時、食堂の入口が騒がしくなったけど
森川兄弟の話で盛り上がっていた私たちは注意を向けなかった。

「あぁ。いた」

遠くから聞こえるその声に
気持ちよりも先に心臓が打った。

ドクン―――

自分の心臓の音にびっくりする。

「原田さん」

私の名字を呼ぶその声に
心臓が波打った原因を脳が理解して
さらに心臓が狂ったように動き出す。

私はその声の方に振り向く勇気は、ない。

「原田さん」

私が聞こえていないと思ったのか、その声はもう一度私の名前を呼ぶ。

その声に紗江子ちゃんが顔をあげて言葉を失った。

それでも、思わずこぼれ出た言葉に私自身も血の気が引いた。

「重田さん」

ああ、やっぱり。
紗江子ちゃんは、私の思った通りの人の名を―――口にした。



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