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黒い聖母
【理想の恋愛 恋愛小説】

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アフリカの女-2

こんなに近付いては人種の違いなど気にもならなくなるのかと、鉄矢は顔を離して起き上がった。まだ放心している女を見下ろした。見下ろせば、遠く離れて育まれてきた体つきの違いが意識される。
女の若さが明るい雰囲気となって鉄矢の肌に伝わってきた。一体、二十五までの女の体の移り変わりようは、なぜこうも速いのだろうか。二十歳(はたち)と二十二とでは、体の張りがもう違う。十八の女の体は命の力に満ちていた。
幾ら鍛えた体でも、男に敵わないことを力で知らせてやりたい。女の力強い肉付きに自尊心を傷つけられた男の、そんな無意識の敗北感からか、鉄矢は乱暴に突き入れると、生娘の感じやすさを気遣うことなく搔き回した。押し破るのに男が痛みを覚えるほど狭い口だったが、油に浸けられたような濡れた肉は鉄矢を止められなかった。中は慣れない深さだった。そして鉄矢を包んでいる周りは、それぞれの凹凸が、違った仕方で鉄矢に絡みついた。排泄するように力が出ていったのを、ときめく気持ちよさと共に鉄矢は感じた。
眉間に皺を寄せながら口を開けたままだった女は、やがて鉄矢に合わせて腰を揺らし始めた。
「痛い?」
動きは抑えずに鉄矢は尋ねてみた。
「熱い。でも周りは気持ちいい。」
それは、聞けば思わず傾聴したくなる、綺麗な、耳触りのよい、可愛い声だった。
鉄矢は自分が硬いまま収まる気色のないことを不思議に思った。早々と射精してしまったことも、それが始まりであると思える余裕があった。汗が雫となり、頭から落ちてくる。性の喜びが、脳までは届かないで、腰で循環しているかのように続いていた。
動き続ける鉄矢の下で、ああああと何度か震えた声を女が上げた。その度に、天へ昇る快さの来ていることが、女の腹のうねりで鉄矢に分かった。

鉄矢は誰から見ても格好の良い男だった。顔はもちろん、背もそこそこ高く、運動も得意だった。文学部哲学科、フランス哲学専攻。その響きにまた箔が付いた。クラブやサークルには入っていなかった。
言いよる女があると、鉄矢はベッドを共にして去った。女のほうでも、大抵の目当てはそれだけなのだった。
ある女と会う約束をする。まず遊園地やコンサート、散歩など、必ずどこかに出かける。そして必ず何かを食べに行く。これらの決まった流れが鉄矢には馬鹿馬鹿しくて堪らなかった。何をし、何を食べようと、その先の期待が常に念頭にあるのだ。すなわち交尾である。動物的な欲望に人間らしいデコレーションを加えた、動物より勿体ぶって下品な遊びでしかないと、女と出かける度、鉄矢は思ったものだった。
鉄矢の冷めた心が相手の女にも感じられていたのは当然である。しかし、それは女を惹きつけこそすれ、少なくとも体を重ねるまで、女が離れる理由には全くならなかった。


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