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痴漢専用車両へようこそ
【痴漢/痴女 官能小説】

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星司の帰国。そして…-4

陽子の部屋の前に立った星司は、扉の表面に残ったプレートを剥がした跡が目についた。星司と陽子が小学校の高学年になるとそれぞれの部屋を与えられた。その時に喜んだ陽子が【陽子ちゃんの部屋】と書かれた自作の木製プレートを貼り付けていた。自分が留学する前までは存在していたプレートの跡を見つめて、星司は改めて1年半の月日の長さを感じた。

ふっ、と息を吐いた星司は、プレートの跡を軽くノックをすると、返事も待たずに扉を開いた。扉の前で星司が感じたとおりの、枕を抱えてベッドに座り込む陽子と目が会った。

待ち焦がれた者との再開に喜ぶはずの陽子の目が、不安げに揺れていた。

それを承知していた星司だったが、いざ頼りなげな陽子の姿を前にして心がざわついた。しかし、星司はそれを圧し殺してゆっくりと陽子に歩み寄っていった。

陽子の瞳に映った星司の像が、2人の距離が近づくに連れて滲んできた。陽子は溢れる涙を拭うことなく、愛する者を見つめ続けた。

陽子のか細い息の届く距離に立った星司が、自分を見上げる陽子の頭にそうっと手を置いた。

それが切っ掛けのように、抱えた枕をサッと手離した陽子は、傍らに立つ星司の胸に抱きついた。星司の手が陽子の肩をそっと抱いた。

その瞬間、愛する者の匂いに包まれた陽子の心が温かいものに包まれた。陽子はその温かさが与える安堵に浸ろうとしたが、その愛する者を抱き締めた自身の手の震えがそれの邪魔をした。初めは自分の手の震えだと思ったが、それだけではなかった。頼もしげに見えていた星司も震えていた。

「星司…」

星司の震えが、自分の震えと違う種類のものだと、陽子は瞬時に悟った。

「帰ってきたんだよね?」

自分の考えが間違っていることを期待した陽子の思いが、ストレートな問い掛けになった。しかし、その問い掛けで、肩に置かれた星司の手がピクリと反応するのを陽子は感じた。

「帰ってきたんだから、もうどこかに行ったりしないよね?」

愛する者の胸に顔を埋めながら陽子は畳みかけるように聞いた。その陽子の肩を掴む手にグッと力が入った。

「何とか言ってよ」

懇願するような目で陽子が見上げた。

「ごめん…」

陽子の目を見ながら答えた言葉は短かった。

(どうしてそんな顔するの…)

自分の考えを肯定するような謝罪の言葉と、星司の辛そうな表情を見た陽子に、怒りの感情が込み上げてきた。

「何よそれ!『ごめん』ってどういうことよ!じゃあ、どうして帰ってきたのよ!」

星司の胸板を叩きながら、陽子は怒りをぶつけた。

「陽子には直接会って謝りたかった…」

「そんなの要らない!どうせ居なくなるのなら、顔なんて見せないでよ!星司は勝手すぎるよ!」

失踪する前日に交わした悠子との会話。卒業式に届いた手紙。星司の留学。そして再開した悠子のやつれた姿。それらが陽子の頭の中でグチャグチャになっていた。

「ごめん。強い陽子にしか頼れなかった。だから直接それを伝えたかった」

陽子の言うように、何も告げずに姿を消せばよかったのだろうか?しかし、そうなると、また違う不安を陽子に強いることになる。星司にもどちらが正解かはわからなかった。

しかし、最低限、自分を憎むことが陽子の力となると考えた結果、星司は敢えて陽子に別れを告げに帰ってきたのだ。

「強い?どこが?あたしも悠子と同じ女なんだよ!あたしも悠子と同じ…、うううっ…」

怒りの表情の陽子の言葉が詰まり悲しみに歪んだ。その目からまた涙が溢れ始めたが、それを見せないように陽子は顔を伏せた。その陽子の肩に星司が手を置くと、陽子はそれを払いのけた。

「バカッ!そんな優しさなんて要らないよ!」

陽子はさっきまで抱き締めていた枕を掴むと星司にぶつけた。

「勝手にすればいいんだ!もう顔も見たくないわ。星司なんて大っ嫌い!」

罵声を浴びせた陽子は、そのまま自分の部屋から飛び出していった。乱暴にバタンと閉ざされた扉の向こうから、陽子の思考が届いてきた。星司は陽子の背中に届くように、自分の気持ちを口にした。

「ありがとう…」

情報解析能力に長けた陽子は、悠子が実家に戻った日に合わせるような帰国で、星司の考えを見抜いていた。

そして陽子は星司のために外に出たのだ。自分が家に居たままでは、その悲しみから星司の考えていることが各務家に漏れる。そのことを見越した陽子は、早朝にも関わらず着替えを済ませていて、部屋から出るときに愛用のバッグを掴んでいた。



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