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HELLO警報
【コメディ 恋愛小説】

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Oh, AMEN警報-1

「それはある朝のこと。僕は線路に沿ってぶらぶら散歩しながら大学まで向かった。しばらくすると、近所の人が大勢、礼服を着て讃美歌の本を腕に抱え教会に行くのを見た。そうだ、今日は日曜日だった。朝の礼拝はすぐ始まるのだろう。僕もそれに加わろうと思ったが、あいにく讃美歌の本を持ち合わせていなかった。なぜだか、凄く恥ずかしくなった。近くの土手で頭を冷やしていると、鐘を鳴らす人が塔に上っていくのが見えた。塔の高いところには礼拝の開始を告げるための小さい鐘が見える。しばらく鐘は静止していたが、やがて揺れ始めた――そして突然その澄んだ音が響き渡った――その音があまりにも冴えて響き渡るために、僕の眠りは終わりを告げてしまった。その鐘の音は目覚し時計のベルの音であった」


 僕はなるべく見た夢をすぐに忘れるようにしている。正確に言えば、夢についてあれこれと深く考えないようにしている、ってことだけど (そのために、起きたらすぐ素数を数えるという方法を採用している)。なぜなら、少しでも考えてしまうと夢の内容が気になって気になって仕方ないからだ。朝の占いは見ないように気を付けることができるけど、夢を見ることは不可避だから性質が悪い。まあ、素数を数えているうちに夢の内容の七割は忘れられるし、ソファに座って熱いコーヒーでも飲めば夢を見たかどうかも忘れてしまうことが常だった。
 だけど、その日は、素数を数えるという僕のささやかな努力が報われることはなかった。夢のイメージがあまりにも鮮明で生き生きとしていたので、どうしても頭から振り払うことができなかったのだ。一度考え始めてしまうと、自分の夢をなるべく徹底的に解釈したい誘惑に駆られる。見た目通り研究肌なのだよ、僕は。大学に行くまで充分時間はあったので、腰を据えて考えることができた。

 未熟なのは百も承知だが、僕はここで自分の夢を分析したいと思う (一応、大学では心理学を専攻している院生だから)。夢の中で出てくる教会は、一見すると非日常的なシンボルである。だが、僕にとっては案外と身近なものなのだ。なぜなら、大学の隣にカトリックの教会があるからだ。夢と同じように、日曜日ともなると礼拝者が大勢来る。僕は別にクリスチャンではない。しかし、「この教会で結婚式を挙げたいな」とか、恋する乙女みたいなことをたまに考えてしまうわけだ。
 教会。
 結婚。
 ここから、今の僕が連想できることは一つしかない。現在進行形で片思い真っ最中の、楠木沙羅である。
 では、夢の解釈を助けるためにも、僕が知っている楠木沙羅についての情報を書いておこう (もちろん、僕も充分な情報は手元にないのだが)。彼女は、僕と同じ社会心理学研究室の卒論生である。つまり、修士一年の僕は、彼女の一年先輩ということになる。彼女はとびきり魅力的な女性だと個人的に思うが、友人の評価はいまひとつであるようだ。友人のコメントをいくつか、いささか不本意な内容だが引用しよう。
「楠木さん? ああ、何かパッとしないよね。別に悪い子ではないけど。印象が薄いというか……」
「お前、楠木さんに気があるの? いやあ、ダークホース狙いだなあ」
「……そうか。個性的、いや、ちょっと変わった子が好きなんだな」
 全く、僕の周りの連中は女性を見る目がないようだ (自分と好みが一緒だったら、それはそれで面倒なのだが)。
 彼女の外見的特徴も挙げておこう。色白で華奢、特に肩のラインが細くて女性らしい儚さを体現している。黒い髪はショートカットで、前髪は切り揃えている。化粧気はあまりないが、こぢんまりとした顔は日本人形のようで素敵である (恐らく、ここが友人と好みが分かれるところのようだ)。


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