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HELLO警報
【コメディ 恋愛小説】

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HELLO警報-1

 あの日のことは良く覚えている。忘れるわけがないじゃないか。何せあの日は、普段より少しばかりスリリングで、僕にとっては多いにメモリアルなんだから。
 いつも早起きで有名 (といってもあまり知られていないと思うが) の僕が、あの日は三十分も寝過ごしてしまった。それが事の発端だった。
 寝過ごしただけでも憂鬱なんだけど、さらに悪いことに、星座占いを見てしまったんだ。ほら、朝のニュースで最後の締めにやっているやつ。占いを見てから出かける人も多いらしいけど、僕は占いが大嫌いなんだ。何故かって? それは……、白状してしまえば、占いの内容が気になって気になって仕方がないからだ。男なのに何を女々しいことを言ってるんだ、と思われても仕方ないと思う。僕自身そう思うし、だからこそ普段は見ないように気を付けていた。
 例の占いが始まる前に家を出ることが日課だったし、迂闊にもテレビを見ている際中に占いが始まってしまったら急いでテレビの電源を切るようにしていた。
 まあ、他のニュースを見るなり、そもそも、そんなに占いが見たくないならテレビを見なければ良いという反論も当然あるだろう。だけど、小学生の頃から見ていたニュースを見ないなんて、少し裏切りのような気がしたし、こういう些末な伝統や習慣でも、変えることより続けることの方が大切だと思ってるんだ。僕はおばあちゃん子だったから変なところで保守的なのだ、と意味もなく自己分析してみたり。
 で、話を元に戻すと、あの日は恥ずかしながら二日酔いでね (もちろん法的にも飲酒が認められる年齢ですよ)。金槌で頭を叩かれている様な感じで、正常な思考ができなかったのかも。占いが始まる時間になっても、放心状態でテレビを眺めていたんだ。何というか、魔が差したというか……。今日の運勢が不幸にもトップだったこともあり、テレビの電源を切るのが少し遅れてしまって。僕は、画面が消える刹那見てしまった。

「今日のラッキーパーソンは、最初に挨拶した人!」

 確かにそう書いてあった。
 もちろん、すぐに忘れようとしたさ。だけど、忘れようとすればするほど脳裏に焼き付いて離れない。テストで悪い点を取ったとき (高校の物理で二十三点だったことを今でも覚えている) や、女の子に振られたとき (再現ドラマの脚本を作れるくらい鮮明に覚えている) と同じだ。忘れたいものほど粘着質な性格だと常々思う。
 そんなこんなで、僕は周りの人間に気を付けながら家を出たんだ。ほら、どうせなら最初に挨拶する人は見ず知らずの人は避けたいじゃん。なんたって、ラッキーパーソンだし。あまりにも品の良くない大仏パーマのおばさんとかだったら、一日を棒に振る気がするからね。てか、棒に振るって表現は少し面白いよね。普通は棒を振るだと思うんだけど。これが日本語の助詞の難しさなんだ、と考えたり考えなかったり。
 さて、ドキドキしながら大学に向かう僕。あ、言い忘れてたけど、何を隠そう僕は大学院生なのだよ。専攻は社会心理学で、要するに社会というフィルタを通して人間の心について思索する学問だね。まあ、ストーリーとは関係がないから説明は省略。
 大学に向かう僕の前に、思わぬ強敵が待ち構えていたんだ。駅前にいるティッシュ配りのお姉さんだ。鼻炎気味の僕にとっては、大変ありがたい存在なんだけど……。昨日の友は今日の敵。優しい笑顔で、「おはようございます」と大手消費者金融の広告付きティッシュを配っているわけですよ。
 いつもなら、僕も笑顔で挨拶を返すんだ。しっかりと挨拶ができる子だ、と小学校の通信簿には必ず書かれていたからね。だけど、今日最初の挨拶は特別な意味があるのだ。なんといっても、ラッキーパーソンだから。
 うだうだ考えているうちに、ついに僕の順番 (別に並んで待ったわけじゃないけど) が近付いてきた。どうしようかと考えていると、思わぬ救世主が現われた。
「ちょっと、ティッシュ下さいよ。2個下さいよね、2個」
 お姉さんの後ろから、髪の毛を紫に染めたおばさんがティッシュを求めたのだ。露骨に迷惑そうな顔をしつつも、おばさんにティッシュを渡すお姉さん。そのお陰で、僕は悠々とお姉さんの横を素通りできた。
 いつもなら、何だこのおばさん、と思うんだけどね。このときばかりは、その図々しさに尊敬の眼差しを向けたよ。昨日の敵は今日の友。この場を借りて謝辞を述べよう。ありがとう、紫おばさん (妖怪みたいな名前だ)。


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