め-3
「何も、って何をですか?」
「・・・・・」
「野口さん!」
少し大きな声を出した私をじっと見つめて。
コーヒーを一口飲んだ。
「これは、別に秘密でも何でもないことなんだ」
何が?
「たぶん、吉野さんより前に入社した人はほとんどが知っている事だと思うし
社内でもかん口令は敷いてない」
え?
「吉野さんは―――天才なんだ」
はぁ?
一瞬、野口さんの言っている意味が理解できなかった。
「天才・・・ですか?」
天才って言葉を使ったのは幼稚園か小学生の低学年が最後のような。
なんだかその言葉が陳腐に響いた。
「入社時の知能テストでIQ153をたたき出している。
参考として東大生の平均IQは120だ」
「にゅ、入社時にIQテストなんて私していません。
それとも知らない間にしているんですか?」
「普通はしていないよ。彼は入社経緯が特殊だったからしたんだ。
本部長が上層部を納得させるために目に見える数字が必要だったんだ」
なに・・・それ?
「これ以上のことを、俺から佐々木さんに言っていいのか分からないな」
これ以上を話すことを野口さんは躊躇した。
「秘密じゃないなら、教えて下さい」
そんな私に苦笑いをして野口さんは話しだした。