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恋のMEMORY
【少年/少女 恋愛小説】

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巴のラブラブ大作戦U-2

「もぅー!こうじゃないよぉーーっ。」

私は今、怒りと焦りがモクモクと膨れ上がっていた。

「今日中に作品を提出するよーにっ!」

と、顧問の先生が出したお題を部員全員に描かせるよう申したのだが。他の部員は既に
提出した、若しくは仕上げ寸前で皆もう既に余裕の表情を見せていた、私一人を除いて。

「うーん、駄目だぁーこうでもないー!」

締め切り寸前の作家はいつもこんな思いをしているのだろうか…、目の前にはピッカピカに真っ白白紙の画用紙が目に映り、絵が埋まる事は一切無く、埋まるのは失敗作を粗暴に
くしゃくしゃに丸め、後ろに放り投げた紙屑ばかりだ。

「はぁ…。」

一息入れ、顔を上げる…。すると窓の向こうが既に暗闇に染まっているのに気づく。

こんな筈じゃなかったな…。絵はそれなりに好きだった、でも軽い暇つぶし程度で別に
毎日描いているとか子供の頃から好きだったとかそういう類いではない…。ただ周りに
誘われ帰宅部はみっともないと思い入部しただけ…、それなのにどうして。

そう後悔し、思いに耽つつ無意識に描いた一枚の林檎の絵。それはお世辞ににも上手いとは言えず、芸術性も欠片もない素朴な林檎、こんなアップルは齧りたくない。

「…もう嫌っ!」

不満が爆発した私は、乱暴に席を立ち荷物のある場所へツカツカと向かい、帰る支度を
する。

良いわ、もう…。私は退部する決心をした。元々そこまで興味があった訳ではないし、
別の部活にでも入れば良い、それでも気に入らなかったら最悪帰宅部でも構わない。

そう軽い自暴自棄となりむすっとした顔でドアに向かう、すると。

「へぇー、美味しそうな林檎だねぇー。」
「!!」

さっきまで睨んでいた画用紙に一人の男の子がジーと興味深く見つめている。

「これ、君が描いたの?」
「…そうよ!見れば分かるでしょっ!」

イライラしていた私はつい粗暴な口調で話してしまう。にしても美味しそう…ってどういう意味?上手だって言いたいの?こんなのの何処か。

「じゃー早く先生に出しなよ、提出…今日でしょ?」
「だって上手く描けないんだもん!それでこんな時間まで遅く一人で、バカみたいに。」
「……。」

描写に悪戦苦闘している時にチラホラと目に映った、ポツンと置かれた筆。それを手にし
鞄に入れる彼、忘れ物を取りに来たのか。

「こんな絵の何処が良いの?良い絵を描こう誰よりも褒められる作品を描こうって思ってるのに全然掛けなくて…。」
「……。」
「でももう関係ないわっ!どーせ今日で退部するつもりだから。」
「必要ないんじゃないかなぁー、上手く描く必要何て…。」
「え?」
「それに絵に上手も下手も上も下もないよ。」
「え、だって…。」

私はもう退部した、けどまだ何処かで引っかかった思いがあるのか、彼の言葉に食付く。

「でも、私にはもう関係ない…、辞めるんだから。」
「辞めて…どうするつもり?」
「そんなの貴方には関係ないでしょ!適当に他の部活あたってそれでも駄目なら帰宅部で
のんびりとするつもりよ。」
「適当って言ったらその部活に失礼だよ、それにそんな気持ちじゃー何処行っても上手く
行かないじゃん。」
「どうして入部したての貴方にそこまで言われなきゃいけないの!だから帰宅部でも良いって。」
「そこから徐々に引き籠っていくんじゃ…。」
「!!」

図星だ、でも何でそこまで分かるんだ…?

「簡単な事だよ、それにチラチラと君の事は見てたからね、まぁ何となくだけどね。」
「え…。」

私の投げやりな態度が目立った、とでも。

「兎に角さ、もう一度描いてみたら?それからでも遅くないよ。」
「あ、ちょ。」

そう言い、勝手に画用紙を新しいのに変え、私にもう一度描かせようと促す。

「………。」

心にクイが残っていた私はもう一度だけ…と言うので渋々筆を握った。

「…でも、どうすれば良いの?皆のように上手く何て…。」
「だからさ、上手く描く必要何てないって。」
「じゃーどうすれば。」
「簡単だよ、楽しく描けば良いんだよ。」
「楽しくって、そんな簡単に言われても…。」
「なら取りあえず描いてみなよ。」
「あ!」

そう言い筆の持った私の手首を掴み、画用紙に近づける。

体が……、近い。

筆が、重い…。でもそれを動かしているうちにドンドン軽くなっていき。いつの間にか
上手く描かなきゃいけない、楽しく何て無理…と思っていたのが嘘みたいだ。

筆が軽い、手が勝手に動いているみたいだ、創作意欲が満ち溢れていく。

「おっ!」
「わぁー。」

そして出来上がった作品はとても上手に…出来た訳ではないものの、自分の中では納得の行く作品に思えた。

「出来たじゃないかぁー!」
「……はぁ、こんな事って。」

それから夜も遅いので早々に学校を後にした。

「ううぅー、何か怖いなぁー。」

薄暗い夜道。

「送ろうか?」
「えっ!?…良いよ、お母さんに電話入れるから。」
「そっか、じゃー気を付けて。」
「あ、あのっ!…」
「?」
「あ、ありがとうっ!小鳥遊君。」
「…風馬でいーよ、稲葉さん!」
「あ……。」





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