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おしの洞
【ホラー 官能小説】

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夏の村-1

 ある北陸の山深い村の中に、その宿はあった。

男はシーズンオフにもかかわらず、東京から電車を乗り継ぎこの町にやって来た。卒論の題材探し、よく言えば取材のためである。
彼が参加するゼミは民俗学。選んだテーマは「民間伝承におけるオカルト性」
いろいろ検索していると、どうやらこの地方には遥か昔、淫魔が現れ村の男たちが大勢取り殺されたと言う言い伝えがあるらしいことがわかった。しかし、それ以上の具体的な話は見つけられなかった。こんなことでもないと足を踏み入れることのない大学の図書館にも通ったし、ゼミの教授に訊ねても首を傾げるばかりだ。ヒトではない美しい女に男が溺れる話はいくらでもある。「雪女」「天女の羽衣」「かぐや姫」――魔物ではないものもあるにせよ、似通った話は世界中にごまんとある。その派生ではないか、と言うのが教授の見解だった。しかし、今更テーマを変える気にもならず、夏休み中でおまけに就活もしていない気楽な身分である。2年の時に始めたバイト先ではすでにチームリーダーになっており、職場の上司も好意的で今のまま働き続けるのであれば直雇用の社員に推薦してやる、と言う話をもらいその気になっているのである。
 卒論に性的な要素を入れない方がいいと言う説もあるようだが、とどのつまり人間の興味の対象は性的なことがらがほとんどを占めている。
「魔物とわかっていても触れずにはいられぬほどの美女」と言うから、彼自信の妄想も手伝ってこの旅を決めたのだ。


 林業と農業で成り立っているような小さな町の更にその奥の村である。
いきなり村の年寄りにそんな話を聞こうとしても胡散がられるだけだろう。
彼はまず町にある小さな民族資料館へ立ち寄った。
この町で出土した土器や、古くから使われていた農機具の展示など。どこの資料館もそうだが、ふらりと立ち寄った旅人が興味を引かれるようなものは何もない。せいぜい地元の小学生が自由研究に使える程度の展示物しかなかった。
入館料が300円と言う段階で期待はしていなかったが。
退屈そうに座っている受付の女性に声をかけた。
「この辺りの伝説で、美しい女の魔物の話を詳しく知りたいのですが、何か資料はないですか?」
「はぁ?」
と間の抜けた返事をする。役場の人間なのか、アルバイトなのか白いポロシャツを着て、髪をいくらか明るく染めている。本人はおしゃれのつもりなのだろうが、不自然に描いた眉が更に田舎臭い。
「山の洞窟に封印されて、以来誰も姿を見たことがないって話なんですが」
「ああ」
受付嬢は小さく頷いた。
「それなら「おしの洞」って言うのがあります。ただ、本当にただの洞穴が岩で塞がっているだけで、そこに魔物を閉じ込めたって言われてるだけですから。わざわざ見に行くほどのものじゃないですよ」
面倒くさそうに言う。
「おしの洞って言うのはどこにあるんです?」
女は「え、行くの?」と言いたげに眉をあげた。
「駅前のバス停から3番のバスに乗って終点まで行けばありますけど、戻ってくるバスは16時にはなくなっちゃいますよ」


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