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プラネタリウム
【ラブコメ 官能小説】

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N.-4

2つ先のバス停で下車する。
少し歩いたところにあるクリニックのドアを開ける。
「こんにちわー」
「あ、あの…初診なんですけど…」
「初診ですね…。保険証よろしいですか?」
「はい」
保険証を手渡す。
「ありがとうございます。それでは、こちらの問診票の記載が終わりましたら、また受け付けまで来て下さい」
「はい」
陽向は問診票を受け取り、近くの長椅子に腰掛けボールペンを手に取った。
名前、住所、年齢……
生理が来ない
体調不良…吐き気、食欲不振
妊娠している可能性………
最後の欄は『不明』に○をした。
ため息をついて受け付けに問診票を返す。
「ありがとうございます。お呼びするまでそこへ腰掛けてお待ち下さい」
先ほどの長椅子に腰掛けてまたため息をつく。
本当に妊娠してたらどうしよう…。
仕事、辞めなくちゃダメかなぁ…。
バンドもおしまいだ…。
ぐるぐる考えていると、かなり早い段階で呼ばれた。
「風間さーん。1番へどうぞ」
言われるがままに診察室へ入る。
「お願いします…」
「そこ、座って。あ、荷物はそこのカゴの中にどうぞ」
荷物をカゴの中に入れ、丸椅子に腰掛ける。
「今日はどうされました?」
「あ…えと。生理が全然来なくて…。なんかよく考えてみたら、気持ち悪くて…」
女医は「そうですか…」と言った後、「こちらへ」と言って隣の処置室へと促した。
「下の服と下着だけ脱いでここに寝て待っててね。エコーの検査をしましょう」
「は、ハイ…」
準備を済ませて分娩台のようなところに寝そべる。
お腹の部分から下はしっかりとタオルで隠してくれた。
女医の手伝いをする看護師が横で機械の準備をする。
「風間さん。ちょっとだけ冷たくなりますよ…」
その瞬間、腹部にヌルッとした冷たいジェルが塗られた。
身体が瞬時に反応する。
「あはは、冷たかったね。…あー、やっぱり」
女医は画面を見ながらお腹の上に機械を滑らせた。
「風間さん」
「は、ハイ…」
「おめでとうございます」
「え…」
「妊娠してますよ」
女医はニッコリと微笑んだ。
頭が真っ白になる。
「んー…4ヶ月くらいかなぁ?ホラ、見える?」
女医が画面を陽向の方に向けた。
「これこれ」
と指を指してくれた。
なんだか分からないものだったが、確かに形はある。
「ちゃんと育ってる!順調順調!」
陽向は画面をじーっと見つめた。
あれが、自分の赤ちゃん……。
「大きさは……6cmくらいかな?」
「え、6cm…」
「大丈夫よ。これからもっともっと大きくなるんだから。…風間さん、身体小さいから大変だと思うけど、パパにもしっかりサポートしてもらってね!ママの身体は思ってるよりもデリケートなんだからね」
「はい」
パパって……湊?だよね?
その後は別室に移動し食べ物や運動、日々の過ごし方など丁寧に教えてもらった。
お会計の時、さっきのエコーの写真とチラシをもらった。
『マタニティーサポート すくすく』
どうやら、母親学級の案内みたいだ。
バッグにそれをしまい、クリニックを出てバス停に向かう。
さっきより雨足が強まった道を歩きながらお腹を撫でる。
確かに太ったとは思ってた。
ライブの後はみんなで駅弁食べまくってたし、セーブしなきゃなんて思ってた。
そんなことより、大丈夫かなぁ…あたしがママなんて。

帰宅すると、湊がソファーに座ってテレビを見ていた。
「ただいま…」
「あれ?もう仕事終わり?」
「湊…」
陽向は神妙な面持ちで湊を見据えた。
「どーした?」
湊は「こっちおいで」と陽向をソファーに座らせると、雨で湿った陽向の髪を撫でた。
「また風邪引くぞ」
「あのね、湊…」
「なんだよ」
「あたし……」
湊はいつもと違う陽向を見て黙りこくった。
「妊娠してた…」
「…え」
沈黙が訪れる。
「マジなの…?」
陽向はコクンと頷き、女医にもらったエコーの写真を湊に渡した。
湊は黙ってそれを見た。
不意に、湊がお腹に顔を寄せ、耳を近づけた。
「動く?」
「わかんない。いま4ヶ月だって。だから気持ち悪かったのかも…」
湊は突然陽向をギュッと抱き締めた。
「やばい……ちょー嬉しい」
「えっ…」
「俺、父ちゃんになるんだ…」
「てかもう父ちゃんだよ」
陽向はヒヒッと笑って湊を抱き締め返した。
ゆっくり頭を撫でてくれる。
そして、暖かいキスをくれた。
「男かな?男がいーな」
「あたしは絶対女の子がいい!」
「キャッチボールやりてーじゃん」
「女の子の方が一緒に買い物行ったりできるもん!」
「…んまー、どっちでもいっか。元気でいてくれりゃ」
湊は「早く会いてーなー」と陽向のお腹をさすった。
「あたし……ちゃんとこの子産めるかな…」
「え?」
「だって、仕事だってこんな不規則だし、すぐ身体壊すし…チビだし…」
陽向はヒンヒン泣きながら俯いた。
「バカかお前は」
「バカじゃ…ないもんっ…」
「泣き虫のママなんてイヤだよなー?」
湊は陽向のお腹をさすりながら笑った。
「こいつだって頑張って生きてんだろ?俺も頑張るから。泣くんじゃねーよ」
湊が涙を拭ってくれるが拭い切れるわけもなく、陽向は湊に抱きついてわんわん泣いた。
「陽向…こいつにも悲しい気持ち伝わっちゃうぞ。お前の泣いてる顔なんて見たくねーよ。こいつもそう。産まれる前も、産まれた後も、毎日笑ってたいじゃん」
湊は「な?」と言って陽向の頭を撫でた。
「ん…」
コクッと頷くと、湊は幸せそうな顔で微笑み「やっと笑ったねー」とお腹に頬を寄せた。
きっと湊は素敵なパパになれる。
あたしも頑張らなくちゃ。


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