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プラネタリウム
【ラブコメ 官能小説】

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N.-2

「風間。10号室の患者さん、換気下がってるから見てきて」
8月も終わる頃。
暇な日で、ナースステーションでノロノロ記録を打ち込みながら欠伸をするほどだった。
10号室の患者さんは自分の受け持ちだった。
突然、換気が下がるなんておかしいな…モニターが上手く感知してないのかな……。
でもなんか嫌な予感がする。
そんなことを思いながらベッドサイドに向かう。
案の定、呼吸苦を訴え、眼球が上天している状態だった。
「ちょ……佐野さん!」
陽向は患者さん……佐野さんの肩を叩きながら呼びかけた。
みるみるうちに顔面蒼白になっていく……。
「佐野さん!佐野さん!」
佐野さんは反応しない。
やばい……どうしよう…。
陽向はオドオドしながら周りを見渡した。
テーブルの上には食べかけの昼食。
まさか……。
真っ白になった頭にいつだかの勉強会で『その場を離れずに助けを呼ぶ』という声がこだました。
すぐさまナースコールを押しながらリーダーのピッチに電話する。
『はーい』
生温い声に「はーい」じゃねーよ!とつっこみたくなる。
が、そんな場合ではない。
「あ…あ…風間です…。10号の佐野さんが…その……顔面蒼白で…えっと……」
『すぐ行くから』
瞬時に通話を切られる。
ほどなくしてリーダーの堀越がやってきた。
「吸引準備して」
「は…ハイ!」
「誰か!10号室来て!急変!」
堀越がそう叫ぶ。
瞬く間に人が集まる。
7人くらいいて、先生も合わせたら9人だ。
「邪魔!どいて!」
そんな言葉が飛び交う。
「風間!早くモタモタしてないで吸引しろバカ!」
「す…すみません!!!」
堀越の罵声を浴びながら必死に吸引する。
みるみるうちに換気が下がっていく。
SpO2は70%ギリギリだ。
「風間、モニター見ながらちゃんとやって。澄田は残って。ちゃんと見ててね。瀬戸さんはバッグバブルやってもらって、進藤は心マして。あ、高橋さん、薬剤と記録お願いします」
「はいよー」
自分以外は非常に落ち着いていた。
「澄田、心マ代わって。進藤は転棟の準備お願い」
「わかりました」
陽向は吸引のチューブを握りしめながら何も出来ない自分に、苛立ちを感じた。
その時、別のチームの先生が現れた。
城戸先生だ。
彼はダンディーで有名な、ベテランのドクターだ。
「この患者、どこのチーム?」
先生が呑気な声でそう言う。
「矢作先生のチームです」
「あー…。不整脈かなんか?この患者のことよく分からんけど、換気低下から来るものっぽいね…。あ、高橋サン、アドレナリン」
「はい」
血管収縮薬が急速投与される。
それでも心電図は、めちゃくちゃな波形を見せる。
「受け持ち誰?」
「あ…あたしです!」
陽向はムダに声を張った。
「疾患、何?」
「拡張型心筋症のある方で、嚥下状態が悪くて…胃瘻増設目的で入院してきたんです…。でも今までご飯は介助がなくてもちゃんと食べれてて……明日、嚥下の評価をする予定でした」
陽向がオドオド言うと「誤嚥かな…」と先生は呟いた。
その時、吸引チューブに何かが引っかかった。
キュウリだった。
意識朦朧とする佐野さんに声をかける。
「佐野さん!!!」
「分かりますか!?」
思い切り肩を叩くが、グッタリして何も言わない。
モニターの波形は同調律を保持していた。
換気は奮っていなかったが……。
「とりあえずICU下ろして」
先生のその一言を皮切りに、周りがばらけ始めた。
陽向は荷物をかき集めてチェックリストに書き、ICUへ向かった。

患者の急変が起こった時には必ずその日の振り返りが行われる。
「第一発見者として、どう思った?」
堀越、瀬戸、高橋、進藤、澄田が周りに座っている。
緊迫した会議室。
陽向はオドオドした。
こんな姿、進藤さんに見られたくない…。
でも言わなきゃ…。
「えと……。換気下がってるからって言われて、見に行ったら呼吸が変で…」
「なんで変だと思ったの?」
「本当に呼吸が止まりそうで…」
1時間程の振り返りを済ませて会議室から出る。
堀越にはズタボロに言われた。
「アセスメント力がない」だの「対応が遅い」だのぶつくさ言われた。
最近リーダーが堀越であることが多く、気分が萎えるのは日常茶飯事なので受け流していた。
それよりも、最近はだいぶコンディションが悪い。
異様に眠いし、気持ち悪い。
ライブのせいだと思う。
それを理由にするのもよくないが、寝不足が続きうつらうつらしてばかりだ。
どっちが本業なんだよと問いたくなる。
陽向はため息をついてパソコンに向かった。


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