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耳にキス、キス、キス。
【女性向け 官能小説】

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 わたしはあっちのソファに座って待っているねと言って、ふたりから離れた。
 ヒロキくんがここにいてもいいよと言ったけど、わたしは気を利かせたつもりで笑って手を振った。
 わたしもきっと、久しぶりに友達とばったり会ったら話し込んじゃうだろうしな、と思いながら。

 店内は休日ということもあって、たくさんのひとで賑わっていた。
 タイムセールを叫ぶスタッフたちの声や、どこかの売り場から聞こえてくる音楽、通り過ぎるひとたちの高揚した様子の話し声に子どもたちのはしゃぐ声、アナウンス……たくさんの音が耳に届く。

 わたしはソファに浅く腰掛けて、スマートフォンを鞄から取り出した。
 ヒロキくんの提案で、最近スマートフォンカバーをお揃いにした。ヒロキくんが選んだ柄はとてもオシャレで可愛くて、センスがいいと思った。

 ヒロキくんってば、なんだかとても緊張していたなぁ。そんなに久しぶりの子だったのかしら。
 わたしはちらりとヒロキくんたちに目を向けた。
 ヒロキくんはわたしの位置からは背を向けているので表情がわからない。でも、スタッフの女の子が楽しそうに笑っているのでよかったと思った。

 SNSを開く。
 最近、書き込むことが減った。
 パラパラと表示されていく“友達”の書き込みを眺める。相変わらず、ここにはいつも誰かがいる。
 あ、あのバンド、夏に新曲を出すらしい。情報が載っていた。
 楽しみだなぁ。あとでヒロキくんにもおしえてあげよう。

 ヒロキくんといっしょにいる時間が増えれば増えるほど、わたしたちはより深くお互いを想うようになった。
 例えば友達と行ったカフェがとてもよかったら、今度の休みにヒロキくんとも行こうと思ったり、お昼に食べたコンビニスイーツがおいしかったら仕事帰りに2人分買って帰ったり……。前よりたくさんのものをふたりで共有するようになった。

 好きなひとと生活するのって、いいなと思った。
 朝起きればとなりに彼がいる。
 ふたりでどこかへ出かければ、必ずふたりで手を繋いで同じ家に帰宅する。
 色違いの歯ブラシにペアのマグカップ。ベタなことだってやってみた。とても楽しいと感じた。まるで、漫画の主人公になったかのような気持ちになった。

 ヒロキくんは、わたしの生活には欠かせない存在になっていた──。

「沙保」

 ヒロキくんに呼ばれて、わたしはスマートフォンをしまいながら立ち上がった。

「待たせてごめん」
「ううん。お話、済んだの?」
「うん。ごめんね」
「そんなに謝らなくてもいいのに。ヒロキくんって、ほんとうに心配性ね」

 ヒロキくんが泣きそうな顔をして笑った。
 泣きぼくろが下がる。
 きゅっと、胸が締め付けられるような感じがした。

「どうしたの? ヒロキくん?」

 どうしてそんな悲しげな顔をするの──?

「ううん、ごめんね。あのね……あの子、前に話した初恋の子……だったから」
「えっ──。あっ、そうなんだ」


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