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桜の降る時
【初恋 恋愛小説】

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聖夜の約束-1

 季節はあっという間に冬になっていた。毎日、毎日寒い日が続き、あたしたち受験生はカゼをひかないようにいろいろな工夫をしながら、毎日受験勉強に励んでいた。
 蓮とは受験を理由に距離を置いていた。
 受験が終わるまで少し距離を置きたい、とあたしが言うと蓮は受験に専念するといいよ、と優しく言ってくれた。その蓮の優しさがあたしの心には痛かった。なぜなら…。あたしは蓮と別れることを考えていたから。
 蓮はきっと、今でもさくらを愛しているんだろうと思ってしまったから。
 そのことに気付いてから、蓮と会うたび、話すたびに、蓮はあたしの中のさくらを見ているんだろうと考えてしまい、会うのも話すのも辛くなってきた。
 あたしはさくらじゃない、霞だよって心の中で叫びながら。
 「水城、最近学校休みがちだけど…。体調悪いの?大丈夫?」
 帰りのHRが終わり、菜月と話ながらカバンに教科書をつめていた時、蓮があたしをつかまえた。
 「え?」
 蓮と会いたくなかったあたしは、学校も休みがちになっていた。学校に行けばいやでも蓮と会ってしまうから。そんなことをしたら余計に蓮に心配をかけてしまうし、蓮に何か言われることもわかっていた。
 でも。学校に行きたくなかった。蓮の顔を見たくなかった。
 「体調は悪くないです。ただ…なんかスランプっていうか…。勉強進まなくって。受験勉強の遅れを取り戻したくって、学校休んで勉強してました。すいません。」
 蓮、心配してくれてるんだよね。でも…。顔が見れない。
 あたしは蓮の顔を見ないで、カバンを見たまま答えた。
 「あんまり無理するなよ。思い詰めると余計勉強できなくなるぞ?たまには息抜きしないと。もうすぐ冬休みだし、水城なら遅れも取り戻せるから。」
 いつもと変わらない優しい笑顔と声で蓮が言う。あたしの心はまたずきっと痛んだ。
 優しい蓮。でもその優しさはあたしにじゃないんでしょう?さくらに対してなんでしょ?
 そう考えると涙が出そうだった。
 「蓮ちゃん、あたしに任せといて。さっそくこの後、お茶でもして霞の息抜き、手伝ってくるからね。」
 菜月の明るい声を聞くとまた涙が出そうだった。きっと菜月はあたしの態度が違うことに気付いてる。だからわざとこの場を明るい雰囲気にしようとしてくれてるんだ。
 あたしもなんとか笑顔を作り、明るく答えた。
 「いいねぇ。お互い、受験勉強のストレス解消しにいこっ。」
 「そうそう。たまにはそうやって息抜きしないと。じゃ、気を付けて帰れよ。」
 あたしと菜月は学校から少し離れたカフェに行くことにした。蓮とのことを話す時は必ず、同じ学校の人に話を聞かれないように、少し遠いこのカフェに来ていた。
 お互いホットココアを頼み、席につく。
 「で?蓮ちゃんとケンカでもしたの?最近元気ないよね。どうしたの?」
 やっぱり菜月は気付いてたのね。菜月はあたしをよく理解してくれている。何も言わなくても、ある程度のことはあたしの態度から何があったのかを察してくれる。
 「ケンカっていうわけじゃないんだ。」
 「そうだよね。だって蓮ちゃんは全然普通だもんね?じゃ、どうしたの?」
 「うん…。あたし、なんかわかんなくなっちゃって。蓮はあたしよりさくらのことを今でも好きなんじゃないかって考えちゃって…。あたしは蓮にとって、さくらのかわりなのかも…って考えちゃったら、蓮に会うのが辛くなって…。」
 今まで考えてきたことを菜月にぽつり、ぽつりと話し始めた。あの秋の、満月の夜にあたしが考えたことも話した。あたしが不安でいっぱいの時に、蓮はさくらのことを考えていたんだよ、と。
 「霞…。なんかそれ、変だよ。おかしいよ。だって、蓮ちゃんが何か言ったわけじゃないでしょ?霞が全部悪いほうに考えて、蓮ちゃんはさくらを今でも愛してるに違いないって、勝手に決め付けてるだけじゃんっ!」
 菜月は飲んでいたホットココアのカップをがしゃん、と乱暴に置くとあたしをきっ、と睨み付けた。


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