デビルサマナー ソウルハッカーズ外伝-12
だが、このオレにとって最大最凶の危機を救ったのは意外な事にネミッサだった。
ヒトミが怒鳴り疲れて肩で息をしている隙に入れ替わったのだ。
「あー、もうっ。見てらんないね。ヒトミちゃん、すこし落ち着きなよ。今度はアタシが話すから」
ぎっとオレを睨んだ。怖いっす…。
「…ねえ風呂彦。なんでアタシたち…ヒトミちゃんがこんなに怒ってるか、分かる？」
…そりゃ勿論、トモコと行為に及んだ事に決まっている。そう言うと、刹那。筋肉アタル版不完全マッスル・スパークが炸裂した。さすがは悪魔、只者では無い。
…三年前亡くなったおじいちゃんに会ってきた。おじいちゃんは、死んだ時と同じく、爽やかに微笑んでいたよ…
大きい、大きい吐息を吐いてネミッサが言葉を続けた。細く綺麗な指で額を支えている。
「心底バカね。これじゃいくら知力を上げても無駄じゃない」
余計なお世話である。だが、今度はローリング・クレイドルでも掛けられては堪らないので、貝のように口を噤んでおく。
「アタシは、そしてヒトミちゃんは、風呂彦がトモコちゃんと寝た事を怒ってるわけじゃないのよ。怒ってるのはもっと別の事。……そう、どうしてアタシたちを抱かないのかってことよ」
ネミッサの説明を聞いてオレは目を丸くする。ヒトミも慌てたらしく、表層にでようと髪が変化しかけるが、すぐにまた銀色に戻った。
「近親相姦がいけないというのはキリスト教や仏教などの影響でしょ。それは宗教による束縛でしかないし、それらの宗教にしろその基礎となる原始宗教にしろ、信仰しているのは同じ人間なんだから、本人たちが良しとしてるんなら良いんじゃない？だいたい、人が好きになったら理屈じゃないんだから…どうしようもないじゃない」
…おお〜。よもやこんな理屈がネミッサの口から出るとは……。納得してしまったオレはただただ頷くしかない。
「それで…ね。当然、それはヒトミちゃんにも当てはまるわけ。アタシは…風呂彦の事が好き。そして、ヒトミちゃんもまた風呂彦が好きなの。でも、アタシがとり憑いてからというもの、風呂彦は抱いてないそうじゃない。だから今日はどうして抱いてくれないのか、それを聞こうとこうして呼んだと言う訳」
ようやく合点がいった。ヒトミとしてもそうしたかったのだろうが、今まではきっかけが無かった為内に秘めていた。それが昨日のことで抑えが効かなくなってしまったのだろう。今日の態度も、その想いをどう言葉にしていいか分からなかっただけの事だ。
それにしてもオレはなんて大バカなんだ。なぜ一番身近にいたはずなのに気付いてやれなかったのだろう。
………いや。むしろ身近にいたからこそ、分からなかった……
「…オレが抱かなくなったのは、変な話だけど……どちらがオレにとって大切な存在になるのか分からなくなってしまいそうで…怖かったんだ。ヒトミは大好きで、ネミッサも好きで、ネミッサはヒトミで、でもネミッサはヒトミじゃなくて……あれ？」
どうにもオレの本音を上手く説明できない。彼女たちに伝わるかどうかかなり自信が無かったが、ヒトミはどうやら主旨を汲み取れたようだ。
「…つまり、こういうこと？わたしにネミッサを見てしまうから、抱けない…」
オレはしばし考え込んで、肯定した。
ヒトミはもう怒ってないようだが、何も言わない。オレもまた、黙っていた。この膠着状態を打破したのは、またもやネミッサだった。
「なら、答えは簡単じゃない。風呂彦、抱いてあげなよ。アタシは…暫く意識をカットしておくから」
上機嫌を装って解決策を提案したネミッサだったが、その顔は残念さを隠し切れていない。
「ネ、ネミッサ？！あなたどういうつもり…」
「どうもこうも無いわよ。もともとそのつもりでヒトミちゃんもココに来たんじゃない。お互いに好きって分かったんなら、邪魔者がいなくなれば良いわけでしょ？だから…今までの想いを受け止めてもらいなよ、ヒトミちゃん」
そう言いながら服を脱ぎだすネミッサ。薄いオレンジのジャケットスーツや、おとなしめのベージュのシャツ等をぽんぽん放り投げていく。
とうとうネミッサは官能的なブルーの縁取り細かなレースで縁取ったハーフカップのブラと、お揃いのショーツを着けただけの姿になった。その格好で、オレにも脱ぐよう命じる。
オレが全裸になったのを確認すると、彼女の髪が漆黒に変化した。