デビルサマナー ソウルハッカーズ外伝-11
Ｓｔｏｒｙ 3
（データ ヒトミ・ネミッサ）
遠野瞳、オレの幼馴染の十七歳。オレの家族とは家族ぐるみで付き合いも長い。成績優秀でオレとは違い、すでに大学の推薦も決まっているらしい。母親は早くに亡くしていて、現在は仕事上の関係で留守にしがちな父親や周囲の人に心配を掛けまいと日頃から気を使っている。そのせいか芯は強く、ファッションなどにも流行り物にあまり左右されないところからもその事が伺える。ただ、夏でも暑そうなジャンパーを着てるのはどうかと思うが……。
ネミッサはオレがＧＵＮＰを入手した時にヒトミに取り付いた悪魔らしい。現在は（勝手に）同居している状態で、時折一人二役をこなしている。そのサマはまるで狂気全開となり、宇宙からの電波をシンクロ率400％で受信しているようだ。離れて見ている分には面白いのだが、時折こちらにも火種が飛んでくるのが恐ろしい。
ネミッサの意識が表層に現われる時、ヒトミの長い黒髪が銀髪に変化する。
翌朝。オレは爆睡ぶっこいていたところをけたたましい携帯の音でたたき起こされた。オレは純粋な夜型人間なので、当然機嫌が悪い。腹立たしいのを電話の相手にぶつけてやろうと思って耳に当てたが、声の主はオレの数段凶悪な雰囲気をたたえていた。
「おはよう、風呂彦。昨日はお楽しみだったわね……」
「…な、何を言ってんだよヒトミ！オレは別に何も…」
「わたし、見てたのよ。昨日の夜。その事でどうしても会って話ししたいの。……風呂彦も、トモコちゃんやおば様には聞かれたくないでしょ？」
こりゃいかん。どうやら…すべてバレてる？！オレはともかく、彼女の希望に従う事にした。
ヒトミからの電話を受けて一時間後。オレたちは天海駅前で待ち合わせ、ゲーセンで時間を潰し、それから映画館に行った。その道順だけ聞くとデートのようだが、オレたちを見かけた人たちにはそう見えなかったろう。
何しろ、喋らないのだ。ヒトミもネミッサも、何を企んでいるのか終始無言のまま。オレはオレでどうしたものか判断がつかず彼女の後を追うだけなので、破局間近のカップルといった方がしっくり来るのは間違いない。悪魔を口説く方が遥かに気楽だ。交渉に決裂したらぶっ殺せば良いが、彼女の場合はオレが殺される。
結局ヒトミが口を開いたのは、映画館を出た時だった。
「あと、もう一箇所だけ付き合って」
オレがどこに行くのか尋ねようとすると、途端に髪が銀色になり、無言のままでギロリとねめつけた。絶対零度の眼差し。これ以上口を挟もうというなら必ず殺すと書いて必殺という魔法をカマシテヤル、間違いなくそう仰っている。げに恐ろしきは団結した女といったところか。
再度無言のまま、彼女たちが着いたのは…ラブホテルの一室。本来なら嬉しくて仕方ないことなのかも知れないが、この寒すぎる雰囲気には逆に不気味な予感しか感じられない。
如何にして我が身を守るか算段を巡らしていると、ヒトミがついに話し掛けてきた。
「…風呂彦。昨日の事なんだけど…」
やはりその事か…。オレは内心の動揺を悟られないように惚けてみたが、その態度は逆に彼女の闘争心に火を点けてしまった。おおおお…目がこれまでに見たことが無いほど吊り上っている。ネミッサばりの目つきの悪さ（…よく考えればネミッサはヒトミの身体に憑いているんだから当たり前だが）だ。このままだと鬼女と間違えられそうだな。
「まだ惚けるの？！わたしね、昨日あなたにご飯を作ってあげようと思って行ったのよ。そしたらあなたの部屋で妙な声が聞こえたから覗いたら…トモコちゃんとあんな事をしていたなんて！！」
返す言葉がございません。オレはダメ亭主さながらうなだれて嵐を耐えしのいでいた。ヒトミはそれに構わず暴走しつづける。
「だいたいトモコちゃんはあなたの妹でしょ！？しかも未成年だし！あなたにはモラルってもんが無いの！？最近わたしは抱かないくせに、やっぱり若い方が良いって言うの！ええ？！どうなの！」
そんな事は無いよと口では言いつつ、頭では妙な雲行きになってきたなあとオレは思っていた。昨夜のトモコの切り替わりの速さを思い出し、やはり兄妹だなぁとおかしな感心をする。
一方のヒトミはよりヒートアップし、明石○さ○まばりのマシンガントークをつづけている。さすがにこのままではマズイ。いつか近いうちに経営者なり店長なりが警察を呼ぶかもしれない。事と場合によっては救急車、いや葬儀屋も来る羽目になりそうだ。