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会社の備品
【OL/お姉さん 官能小説】

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新人歓迎会(前編)-1

■視点 岡田香澄

 四月の最後の金曜日。今日は新人歓迎会が開かれた。

 幹事は二年先輩の水口憲司さん。いつも爽やかな笑顔を浮かべるイケメンなんだけど、仕事を全然覚えられない私にも優しいし、分からないことは優しく教えてくれる。ついつい頼ってしまう先輩だ。

 そんな水口さんは、新人歓迎会は二次会もあるし、下手したら三次会もあるらしいからと事前に教えてくれた。なので、母には事情を話して、朝帰りするかもと言ってある。

 会場は会社のすぐ隣にある小さな居酒屋で、社員全員が入るとそれだけで貸切状態になった。店内は清潔感があって、出てくる料理もおいしい。

 今日は春先にしては暑かったせいか冷房が強く、Tシャツに薄い上着を羽織った私には少し肌寒いほどだったが、それもさほど気にはならなかった。

 しかしトイレだけはいただけなかった。

 飲み会が始まってしばらくすると、私たち新人はコップと瓶ビールを持って挨拶して回った。そうすると返杯されるのだが、未成年である私はアルコールでなく烏龍茶のピッチャーで返ってきた。

 体が冷えていたところに烏龍茶をグイグイ飲んでしまったせいか、社員の半数を回った頃には尿意を覚え、私は中座してトイレへ向かった。

 トイレは一つだけで、男女共有だった。ドアを開けると和式で、当然のことながら音姫だとかウォッシュレットなどはない。洋式派の私にとってはあまり嬉しくなかった。

 とはいえ、トイレはここしかないので諦めてベルトを外すと、スラックスとショーツを一緒に下ろし、便器を跨いでしゃがみ込む。

 おしっこはすぐに出て、それなりの勢いを持って便器へと放たれた。チョロチョロという音が、トイレの個室に響く。今更ながら、せめて水を流せばよかったと後悔した。

 おしっこを出し切り、トイレットペーパーへ手を伸ばすが、掴めるものが何もない。カラカラと、ロールの芯だけが乾いた音を立てて回る。紙がない。

 …………。
 たっぷり十秒は固まっていたと思う。誰だ、前に紙を使い切ったやつ……ちゃんと補充しておいてよ!誰ともしれない相手に殺意を覚える。辺りを見るが予備のトイレットペーパーが見つからないため、仕方なく、私は拭かないままショーツを履き直した。

 外に予備があれば戻って拭こうかな、と考えながらドアを開けると、ゴンっという鈍い音をあげ、ドアが何かにぶつかった。それと同時に悲鳴が聞こえる。

 慌ててドアの向こうを覗くと、部長さんが額を押さえてうずくまっていた。たしか、松戸部長だったかな。名前は少しうろ覚えだ。

「ご、ごめんなさい!大丈夫でしたか⁉︎」

 人がいることを意識せず、勢い良く開けてしまった私に落ち度があると思い、すぐに謝る。

「いやいや、大丈夫だ大丈夫。」

 松戸部長は禿頭のため、ぶつけた額が赤くなっているのがよく分かる。

「岡田さんは気にしなくていいからね。」

 といいながら、私の入ったあとのトイレに入っていった。トイレの音、聞こえちゃったかな……と思っていたら、重大なことを忘れていた!

 水流してない!
 紙がなかったことに動転し、すっかり忘れていた……あぁ、最悪だ……松戸部長、私のおしっこを見たのかな……見たよね。穴があったら入りたい。誰かに埋めて欲しい。


 過ぎたことはひとまず置いておき、席に戻るとまだ挨拶をしていない先輩のもとを回る。

 挨拶が終わって席に戻ってくると、今度は社長や副社長のいる役員の席へと呼ばれた。社長は六十代後半らしいが、まだ五十ぐらいでも通りそうだ。松戸部長よりも下手したら若くみえる。

「やっぱ女の子のいるお酒の席はいいね!居てくれるだけで華があるよな!」

 社長はご機嫌で、周りの役員に同意を求める。

「社長ぉー、最近じゃそういうこと言うと、セクハラで訴えられますよ。ね、岡田さん。」

「いやいや、大丈夫ですよ、それぐらい。気になんてなりませんから。」

 本心からそう思う。いちいち気になんてしていられない。

「ほらみろ!本人もいいって言ってるじゃないか!」

 そんな感じで社長は終始ご機嫌だった。
 役員の方々とお話をしていると、社長が私のグラスが空なことに気づいたようだ。飲み放題のメニューを渡されるが、未成年なので、と言って烏龍茶を店員にお願いする。

「お酒飲めないからって烏龍茶だけじゃ損だろうに。」

 社長はそう言うと、その店員にメニューにないノンアルコールのカクテルを注文した。

「メニューにないけど、いいんですか?」

 私は心配になり社長に尋ねる。

「いいよいいよ、これぐらい。俺がちゃんと払うから。岡田さんが主役の飲み会なのに、一人だけ烏龍茶なんて可哀想じゃないの。」

 社長は気前良く言ってくれる。こういう気配りが出来るから社長になれるんだろうなと思っていると、ノンアルコールのカクテルがやってきた。

 カクテルグラスの中には青い液体が注がれていて、中に入っている赤いサクランボが良く映えている。

「ふわぁ、きれいなカクテルですね。」

 素直な感想を口にすると、社長はますます機嫌が良くなったようで、おいしいから飲んでご覧、と勧めてきた。

 一口飲むと爽やかな甘さが口の中に広がる。

「んぅー!ほんとにおいしい!」

 味気ない飲み物ばかりだった私は、続けて二口目も飲む。それを見ていた社長は、いい笑顔で私を見ていた。


 しばらくすると、突然眠気が襲ってきた。気づかないうちに、日頃の業務で疲れが溜まっていたのかもしれない。こんなところで寝ちゃダメだと思いながらも、私はつい意識を手放してしまった。


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