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真田拾誘翅(さなだじゅうゆうし)
【歴史物 官能小説】

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拾壱-4

幸村は腕組みをし、うなだれて考え込んだ。そして、やおら顔を上げるとこう言った。

「……又兵衛どの。ここでの曲輪作り、それがしに譲ってもらえぬであろうか」

「譲れと言われるか。……真田左衛門佐どのの申し出であろうと、お断りもうす」

「ここは出丸作りにはうってつけの場所なのじゃ」

「わしが先に見つけた場所じゃ」

「そこをまげて……」

「くどいのう」と言おうとした又兵衛が、ふと、幸村の肩越しに久乃の姿を目にとめ、「ん?」という表情になった。久乃は慌てて下を向き、もじもじしている。

「そこもとは、いつぞやの歩き巫女ではないか。あの節は世話になったのう」

「おや、又兵衛どのは久乃をご存じであったか。……久乃、何をしておる。挨拶をせぬか」

主君に促され、前に出てきた久乃だったが、いつもは冷静な彼女とは違い、どぎまぎした感じだった。

『あ、久乃姉(ねえ)は、この身体の大きな侍に特別な思いを持っているのかも』

早喜は直感した。自分が幸村の前に出ると示してしまうそぶり、それをもっと色濃くした感じが久乃にはあった。

「お久が幸村どのの手の者だったとは……」又兵衛が頭を掻いた。「これは困ったのう」

「困る?」

「いやぁ、幸村どの。じつは拙者、お久には借りがありましてな。出世した暁には礼を、たんと弾むと約してあったのじゃ」

「そうなのか?」

久乃は少し頬を染め、凝り固まったが、再度幸村に尋ねられ、小さくうなずいた。

「お久。わしは大出世とは言えぬまでも、大坂城で六千の兵を預かる将としてここにある。戦の支度金もたんまりもらった。しかし、銭でそこもとの貸しに報いるのも芸がない」

「……と申しますと?」

「そこもとが今、一番喜びそうなことで借りを返すとしよう」又兵衛は久乃に笑いかけると幸村に向き直り、手を取ってその上に自らの手を重ねた。「ここでの砦作り、幸村どのに譲り申そう。譲るからには大掛かりなものをこしらえなされよ」

思いもかけぬ展開に幸村はややあっけにとられたが、すぐに又兵衛の手を押し戴き感謝を示した。同時に、粋でさっぱりした気風のこの豪傑と共に戦える喜びを噛みしめた。

 出丸作りには大野治長ら大坂城古参の承諾が必要だと又兵衛から聞いた幸村は善は急げと足早に本丸へ向かい、早喜も又兵衛に黙礼してから後を追った。ひとり残った久乃は「あの、私も失礼いたします」と言いかけたところ、「お久、急ぎの用がなければ、暫時付き合え」と又兵衛に誘われ、「供侍はすぐに返すゆえ、二人でどこかへ参ろう」と囁かれ、思わずうなずいてしまっていた。


 大坂城の惣構えは広い。城郭の内側に町が一つあるようなもので、様々な職種の店が並び、また増えつつある。
 真田の傀儡女たちが娼家を開こうとしているが、すでにそのたぐいの店はあり、男と女が密会する茶屋のようなものまで出来ていた。その一軒に又兵衛は久乃を連れ込んだ。
 薄暗い小部屋で二人向き合うと、又兵衛はすぐに衣を脱ぎ、肌を晒した。先だって脚に古傷があるのは見ていた久乃だが、上半身も無数の槍傷、刀傷があり、歴戦の勇士であることを物語っていた。
 出会って二度目なのに、二人の呼吸は妙に合っていた。余計な言葉も交わさず、久乃は相手の意を汲み、衣を脱いで夜具に身を横たえる。又兵衛の巨体が覆いかぶさり、睦み合いが始まる。

 豪傑の風貌とは相反し、五十代半ばの愛撫は手荒なことはけっしてなく、着実に快感を植えていく感じだった。

『ああ……。やっぱり、大殿に似ている』

亡き昌幸を彷彿させる又兵衛に、久乃は力を抜いて身を任せた。心安くしていると心地よさも素直に湧き、秘唇もしっとりと潤ってくる。
 やがて、又兵衛の漲った亀頭が秘壺をこじ開けて埋没すると、久乃はひしと抱きつき、男を奥の間へと誘った。歓待を感じた又兵衛は「愛(う)いやつ」と目を細め、まったりと腰の振りを開始する。
 以前、又兵衛の巨根で悦楽の涅槃をさまよった久乃であったが、今回も彼女は心の籠もった抽送を味わった末に甘く甘く入滅した。しかも何度も。
 久乃が少女の頃、昌幸から伊賀者の頭領の性戯には気をつけろ、性愛の深淵に墜ちてはならぬ、と戒められたことがあったが、今、同衾している男は敵ではなかった。主君幸村と共に徳川に立ち向かう味方であった。ゆえに、久乃は心も身体も開け放し、蕩(とろ)けきるまで蕩けた。

 事が終わり、二人は満ち足りた気分で抱き合っていたが、久乃があらためて今日の礼を言った。

「我が主に出丸の土地を譲っていただき、感謝の言葉もございません」

すると、又兵衛は淡く笑みを浮かべた。

「真田は代々、敵をおびき寄せては激しく叩く戦法を得意としてきた。幸村どのも、かの上田合戦でそのような駆け引きに臨んでおる。わしよりも出丸での戦いは上手いはず。それに、幸村どのの兄、真田信之と、叔父、真田信尹は徳川についておるゆえ、古くから大坂城に住まう者どもは幸村どのの裏切りを懸念しておる。本城内で気詰まりでいるよりは出丸で戦ったほうが楽であろうよ」

「では、又兵衛様は初めから譲る気で……」

「そうしたところ、お久の顔が目に飛び込んできたので、ああいう話の仕儀になった……。いや、実際わしも、そこもとの借りを返すことが出来てよかったと思っておる」

「借りなどと……」久乃は又兵衛の懐にそっと顔を埋め、囁いた。「借りを返してしまえば、あとは私、用無しでございますか?」

言われて又兵衛はわずかに目を丸くしたが、「そんなわけがなかろう!」と、きつく久乃を抱きしめた。


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