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プラネタリウム
【ラブコメ 官能小説】

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M-2

夜勤への申し送りも終えて、パソコンの前に座る。
最高に頭が痛い。
あー…解熱剤、効かなかったかな…。
今日、忙しかったもんなぁ…。
座った瞬間、ものすごい脱力感に襲われた。
「はい、お疲れ」
唸りそうになった時、そう言いながら隣に座ってきたのは瀬戸だった。
「熱あんの?」
「えっ?」
「そーゆー顔してる」
「……」
周りには誰もいない。
陽向は「ちょっとだけです…」と濁した。
瀬戸には何でもお見通しだ。
すかさずおでこに手を当てられる。
「ちょっとだけじゃないな」
「相当ですかね」
「相当だね」
「記録入れてすぐ帰るんで…」
陽向はうつろな目でパソコンを見つめた。
何度もキーボードに頭をぶつけそうになるほどうつらうつらする。
こんなんじゃ仕事にならない…。
頭いたい…。
陽向は頭を抱えた。
ちらほらと席に着き始めたスタッフは「風間はまた居眠りか」なんて思ってるんだろう。
記録中の居眠り常習犯であることは去年からだ。
だが、瀬戸だけは隣でチラチラこちらの様子を伺っているようだ。
…こんなんじゃただ時間が過ぎるだけだ。
陽向は、よし!と心の中で気合いを入れてパソコンに向かった。

19時には完全に記録は終わった。
他のスタッフはまだ記録に没頭している。
残業もいいところだ。
労働基準法違反で訴えてやりたい。
と、いつもなら思うが今日はそんな余裕はない。

やっと終わった……あとはバスに乗って帰るだけだ…。

「お疲れ様でーす…」
そう言って椅子から立ち上がろうとした時、上手く身体が動かなかった。
そのまま転げ落ちる。
「ちょ……」
瀬戸の逆隣に座って記録を入れていた高橋が驚いた顔をする。
「あ…だ、大丈夫なんで……あ、スミマセン」
そのまま立ち上がろうとするが力が入らない。
視界が、螺旋階段を猛スピードで降りているかのように、目まぐるしく回る。
「風間!大丈夫?!ほら…」
周りで記録していたスタッフ達が駆け寄る。
陽向は、うーん…と声を出すのが精一杯だった。
やっと帰れると思って気が抜けたのかもしれない…そんな気がした。
高橋は即座にマスクを外してくれた。
少し冷たい空気が肺に流れ込む。
そして、体温計を脇に挟み、自分の手で陽向の額に触れた。
間も無くして体温計に表示されたのは39℃ぴったり。
「やっぱり熱あったんじゃん!なんで言わないの!」
「ぁ…ごめ…なさい」
「あーもー…顔真っ赤。休憩室で休んでから帰りな」
「…ハイ」
立ち上がろうにも上手く立てなくて、瀬戸に抱きかかえられ、休憩室のソファーに寝かされた。
「強がり」
「……」
「かつ、病弱」
「すみません…」
「強いのか弱いのかわかんねーやつ」
瀬戸は笑いながら冷蔵庫を開けた。
グビグビと喉を鳴らしてペットボトルのお茶を飲んでいる。
陽向は右肩を下にしてうずくまった。
瀬戸が、テレビ台の下にある籠から毛布を取り出し、身体にかけてくれる。
そして「ほれ」と、頬に冷たい何かを当てられた。
「いっ……」
冷たくて変な声が出てしまった。
冷たい何かを両手で掴み、ぼやんとした目でそれを見る。
「飲もうと思ってたけど気分変わったから、お前にやるよ」
「え…でも…」
視線を合わせてくれない瀬戸を見上げる。
「今日も明日もあさっても飲みたいって思わなそーだから、いらねー」
「……」
冷たい何か……栄養ドリンク……は、いつも瀬戸が愛飲しているものだった。
常に冷蔵庫に常備してあるのを知っているし、休憩中に飲んでいるのも見たことがある。
「子犬みてーな目してこっち見んなよチビ」
低い声で言われる。
「チビじゃな……」
その言葉にはムカついたので言い返そうと思った。
が、「それ飲んだらちょー元気になるから」と頭を撫でられたので、言い返せなくなってしまった。
マスクをしているので分からないが、きっと口をへの字に曲げているのだろう。
優しい時はいつもそうだ。
「ありがとうございます…」
瀬戸は何も言わずに休憩室から出て行った。


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