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『望郷ー魂の帰る場所』
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『望郷ー魂の帰る場所ー第三章……』-5

なのに宏行の心は晴れる事なく鉛を飲んだ様に重い。それは田神の言葉が心に引っ掛かっていたからだろう。

田神は言った。犯人は宏行が知っている人物の可能性が高いのだと。詳しく言えば彰人と自分が共通して知っている人物である可能性が高いという意味だ。

自分と彰人の共通の知り合いは少なく無いが多いという訳でもない。寧ろ問題なのは自分の知っている誰かが犯人かもしれないという事なのだ。

自分の知り合いにこんな事をする人物の心当たりなど無い。だからこそ逆に知りたくないという思いがある。
宏行の心の中に組み上がっていく真実と言う名のパズル。しかし肝心なピースが足りない。

足りないピースは手の中にあるのかもしれないが、それをはめ込む事を躊躇う自分がいる。

知りたい、知りたくない、知りたい……

もやもやとした感覚だけが宏行の胸中に渦巻いていた。



カツン、カツン、カツン……

薄暗い廊下のリノリュームの床に革靴の音が響く。革靴の主は、とある部屋の前で立ち止まると静かに扉を開けた。部屋の中にはスチールパイプを組んだベッドがあり、その上には小さな寝息を立てている少年がいる。

男はベッドの側まで歩み寄ると少年の寝顔を覗き込んだ。白衣のコートのポケットに両手を突っ込んだまま小さく溜息を付くと、誰に聞かせるでもなく小声で呟く。

「一番辛いのは君だろうな。錯乱を起こす程の体験を二度……或いは、それ以上も繰り返すのだから。しかし犯人を捕まえると言う大義名分もあるし、僕の目的の為にも君には強制的に協力して貰う。すまんな。」

そう言って毛布の乱れをそっと直すと男は静かに部屋を出る。廊下に響く革靴の音は次第に小さくなり、やがて聞こえなくなっていった。

それから小一時間後、先程の男は自宅のソファーに身を沈めて煙草を咥えていた。ソファー脇のテーブルの上にはノートパソコンが開いていて、画面には文字の羅列が映し出されている。

ソファーから身を起こして男がマウスを操作すると、画面は最初に戻る。そこにはこう書かれていた。

《超常現象とその考察について……》

ふぅっと大きな溜息をついて眼鏡を外してテーブルに置くとこめかみを指で揉む。

先程、御山 彰人の病室を見舞い、自宅に戻った男。それは言うまでもなく田神であった。彼が宏行に協力を申し出た理由はパソコンに書き込まれている様に、この事件の背後に超常現象が関係していると踏んだからである。

警察の捜査の結果、現場の状況から単独犯説が有力視されている。だが医者としての自分に言わせれば、それは有り得ない。そして彼の言葉である、

《あいつは…、あの女は…》

これらの判断材料から推察するなら、犯人は一人で女であると言う事だ。しかし彼の怪我を診察した医師や治療に携わった看護士は口を揃えて有り得ないと言うだろう。それ程に彼が負った傷は大きい。

プロレスラーの様な体躯の男が相手ならいざ知らず、一人の女性を相手にここまで一方的に怪我を負うだろうか?

すべて推測の域を出ないが本当に一人で、本当に女性が相手だったとするならば何らかの特殊な条件があったのではないだろうか?

すなわち超常現象と呼べる何かが。


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