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【スポーツ 官能小説】

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〜 土曜日・備品 〜-2

 そのあとで簡単な練習があった。 新入生同士ペアをつくり、片方がブリッジから椅子になり、もう片方が腰を下ろした。 椅子役を交替して、5回ずつの座りっこだ。 髪ごしに頭を地面につけて海老反るだけで身体がギシギシ鳴って、ソッと座られるだけで崩れそうになる。 どうにか姿勢を保ち、股間を拡げるだけで、全身に大粒の汗が滲んだ。 カーペットでは、足を固定したまんぐり返しを作った上で、お互いに密着しなければいけない。 股間を真上に晒した私たちは、身体を揺すったりよじったりしながら、埃のようにみんなで集まる。 重ねた肌はどれも泥と擦り傷がいっぱいだけれど、汗で濡れて、そしてとっても温かかった。 
 
 一通りやってみてから、副寮長は私達を並ばせた。 

『備品にしろ仕事にしろ、基本的に詳しい説明はしてくれない。 何かをしろ、と言われたら自分で考えて動かなくてはいけない。 機能を損なわず、自分を顧みず、恥ずかしくはしたない自分に相応しい形になるように動くことが、学園の一部たる寮の決まりだ。 学園に入学して最初の週が過ぎるんだから、そろそろ細部まで思考が伴わないと困る。 さっき説明したもの以外も、その場で備品の機能を再現できなくては、寮で暮らすことは認められない』

 そして、

『ここにある道具で『消火器』を再現しなさい。 思いついたら玄関前にきて、私にみせてもらう。 これはテスト。 合格したものだけ今後寮に入ることを認める』

 眉1つ動かさず言い放ち、副寮長は玄関に消える。 副寮長が去ったあとには、いくつも古い消火器が転がっていた。 ボンベからチューブが伸び、ノズルに繋がったごく普通の消火器。 この備品を再現しろという、その想定外の要求に対し、今日だけで何度目だろう、頭がクラクラして倒れそうになる。

 火を消す器械。 ということは、例えば火を尿で消せということ? 
 これは有りそうなものの、消火器より機能で劣るし、安直すぎて違う気がする。

 火を口で包んで酸素の供給をたち、消火しろということ?
 所詮人の口だ。 燃え上がった火をガブリとしたって多寡が知れている。


 例えば股間やお尻を火に押しつけて消すことはどうだろう?
 火傷は避けられそうにないし、そもそも擦るくらいで消える火なら、消火器を使うまでもない。

 と、壊れた消火器が目に留まった。 チューブ、ノズル、ボンベが外れてバラバラになった消火器。 チューブとボンベから白い粉末が零れている。 どうやらそれぞれのパーツは、簡単に取り外しできるらしく――。

 閃いてしまった。 正解かどうかは分からない。 でも、私がやるしかないんだと思う。
 
 細いチューブをそっと拾い、

『……っ』

 一息に右の鼻孔に通す。 

『……っ……っ』

 混みあげる鼻水とくしゃみの衝動に耐えながら、チューブの先端を奥へ奥へ導く。 やがてチューブは突き当たりを下におり、咽喉に擦れながら、

『えぐっ……!』

 先端が舌の根本に触れる。 私は人差し指と中指で、口からチューブを引っ張り出した。 クラスのみんなの視線が刺さる。 一か月前なら、私に注ぐ視線は既知外を眺めるソレだろう。 けれど既に学園生活が始まった今、軽蔑や好奇の目で見てくる生徒はいない。

 ボトルを地面にたて、脇に屈む。 鼻からでたチューブの先をボトルにつなげる。 併せて口から伸びるチューブをノズルのピンで挟みこむ。 

『はう……ん……ッ』
 
 完成だ。 私はえずきながらチューブを調節し、口の中にノズルを収める。 大きく開いた上下の歯で、消火器のノズルを咥えた格好だ。 空いた手で消火器を胸元に持ち上げ、チューブがこれ以上粘膜に擦れないようゆっくり立ち上がる。 
  
 この状態でノズルを噛めば、どうだろう。 そうすればボトルから消火剤がチューブを通り、口から放出されると思う。 全力で噛めば、放出する勢いでチューブが暴れたとしても、きっと火元に狙いを定めて吐きだせる。 ヒトであれば『手』を使うところだが、器具ともなれば『手』を使ってはいけない。 口から白い粉を吹く形式であれば、器具として認めてもらえる気がした。

 チラリ。 他のみんなを見る。 私が何をしようとしているか、みんなに伝わっているだろうか?

 ……考えてもしょうがない。 私だって自分のことで精いっぱいだ。 クラスメイトに解説するところまで要求されても困る。 こうやって消火器を咥えるところまで示したんだから、あとは自分で考えて動けばいい。 鼻の穴から鼻水が垂れてきた。 拭う術もないし、啜ろうものならチューブがますます擦れてしまう。 汁が溢れるに任せ、私は消火器を抱えて玄関に向かった。 

「ぐず……うう……」

 器具でもどうにでもすればいい。 私は椅子で、テーブルで、カーペットで、消火器だ。 自室に戻れば先輩の足ふきマットの立場だ。 物扱いされるくらいで、今更辱められたなんて思いやしない。 副寮長がテストしてくれるというなら、真剣そのものの表情で、口から消火剤を吹いてみせる。 憐れなモノを演じてみせる。 それでダメといわれたら、また別の、もっともっと無様な消火器を演じてみせる。
 
 背後で消火器を解体する気配を感じながら、私は薄暗い玄関に、ゆっくり着実に歩を進めた。


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