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耳にキス、キス、キス。
【女性向け 官能小説】

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理由-4

 わたしは何度もうんうんと首を大きく縦に振った。
 もどかしいような、歯がゆい気持ちになった。

「引っ越していっちゃってからも連絡は取り続けていたんだ。それでね、ちょっとずつあの子の様子が──雰囲気とか好みとかがね、変わっていっていることに気づいたんだ。友達ができたんだ、あの子に。いいことなんだよ。よかったって思った。でもね……高校に入学して、あの子はさらに変わっていっちゃったんだ。髪を明るくして派手な化粧をして。大きな口を開けて楽しそうに笑うプリクラ画像を何枚も見せてもらった。あの子、中学のときの暗い自分は大嫌いだって言っていた。暗いからいじめられてたんだ、いじめられないようにみんなと同じようにしなきゃいけないんだって……。いじめられっ子だったときの自分なんか消してしまいたいって」

 そう言ってヒロキくんは小さく息を吸い込んだ。
 わたしもつられて息を吸い込む。
 ゆっくりと息を吐き出してから、ヒロキくんは静かに続けた。

「僕は、過去の……あのときのあの子が好きだったんだ。結局言い出せないままだったけど、あの子のあのまっすぐな笑顔が好きだった。なんであんなふうに笑えるんだろう、なんであんなに強いんだろうって思っていた。でも言えなかった。楽しそうに笑うあの子に、過去は消してしまいたいというあの子に言ってしまったら、今のあの子を否定してしまうんじゃないかって──馬鹿な考えだけど、そう思っちゃったんだ」
「うん……、なんかわかるよ」

 なんてことだろう。なんて皮肉なことなんだろう。
 ヒロキくんの気持ちも、同級生の女の子の気持ちも偽りなくまっすぐだ。
 交差することができなかっただけ……。

「ありがとう。実はね、高二の春に付き合ってほしいって言ってもらえたんだ。でも僕は無理だって断ったの」
「えっ」
「どうしてもダメだったんだ。あの子は僕に、今のわたしのどこがダメなのって聞いてきたんだけど……僕は何もいえなかった。終わったと思った。実際、あの子からの連絡はそれっきり。僕からも連絡しようとは思えなかった。大学では吹っ切れて彼女もできたけど、でも僕はひとの愛し方がよくわからないんだ。距離感がうまく掴めない。好きだって気づいたときからその気持ちを抑えることができないんだ。あのときみたいに手遅れにならないように──後悔したくないから──そう思うと、気持ちが抑えられなくなる」
「ヒロキくん……」

 ヒロキくんがふっと肩を落とすと小さな声で、あの子の母親は全然変わってなかったと呟くように言った。
 それから、久しぶりに顔を合わせたからびっくりしちゃった、僕の一方的な過去の話を長々と聞かせちゃってごめんねと言いながら、ヒロキくんが再びわたしの手を引いて歩き出した。

 わたしは、そうだったんだと思った。そういうことがあったから、ヒロキくんの愛はとてもストレートなんだ、と。

「あの子のことは初恋の思い出として大事だけど、沙保さんにはかなわないからね」
「気を遣わなくてもいいのに」
「ほんとうにちっとも嫉妬してくれないんだね」
「でも特別なんだなって思ったよ、その子のこと。話してくれてありがとう」
「沙保さんには話しておきたくなっちゃって。みっともないくらい青くさい過去の話だけど」


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