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耳にキス、キス、キス。
【女性向け 官能小説】

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 火照った身体にミネラルウォーターがするすると流れていく。
 この瞬間がわたしはとても好きだ。

 もこもことした肌触りのいいルームウェア用のワンピースを着て、コップを片手にベッドに腰をかける。
 昨日はここでヒロキくんとふたりで眠った。
 狭いねえと言いながら、寄り添って抱き合って目を閉じた。

 ヒロキくんの規則正しい寝息も、上下する胸も、体温も愛しくてたまらなかった。

 幸福だった。彼がわたしのそばで、わたしの体温を感じながら安心した顔をして眠っているという事実に胸がいっぱいになった。

 途方もなく孤独だったわたしに気付き、必要だと言ってくれたヒロキくんのそばで、わたしは確かに幸福を感じていた。

 スマートフォンの画面に、メールがきていることを知らせるメッセージが出ていた。

 ごろりと寝転びながら内容を確認する。
 ヒロキくんから、今晩の寝る前の電話は何時くらいが都合が良いか尋ねるメールだった。

 やわらかいコットンのベッドシーツの感触が頬に気持ち良い。
 横を向いて寝転がっていると、時折こうして涙が湧き出るのはどうしてなのだろう。

 ヒロキくんに返信をして、軽くストレッチをしてからわたしはマイスリーを静かに飲み下した。
 薬が自分ののどを通り、じわりと溶けてなくなっていくところを想像する。

 薬も食事と同じように体内に取り込んだ瞬間からわたしの一部になる。
 この想像はわたしを酷く孤独にする。

 誰かと暮らしていれば、その誰かとわたしは同じものを食べることによって細胞レベルで似ることが可能になる。

 数日、数週間、数ヶ月、あるいは数年かけてその誰かとわたしは身体の内側から近しくなる。
 血縁のないもの同士が同じものを食べ、同じもので身体をつくる。

 世の中の夫婦を、同棲をしているカップルを、わたしはそういった考えからとてもうらやましいと感じていた。
 憧れていると言ってもいいかもしれない。

 ひとりで暮らしていると、たまらなく寂しい気持ちになるときがある。
 この憧れの気持ちを思い出した瞬間も、そうだ。

 寂しい。
 わたしはひとりなのだという、わかりきったことに寂しさを感じる。

 でも、とわたしは自分自身に強く思った。でも、今は違う。
 一緒に生活はしていないが、わたしを必要だと言ってくれるひとがいる。
 名前を呼べば快く返事をしてくれるひとがいる。

 着信を知らせるバイブ音がした。
 わたしは深呼吸をひとつしてからスマートフォンをタップした。


 夜中。
 時折目が醒めることがある。

 ヒロキくんと話し、安心し、薬の効き目を感じながら眠っているというのにどういうわけか午前二時や三時頃に目が醒めてしまう。こんなふうに。

 カーテンの隙間から射し込む細い月明かりをぼんやりと眺めながら、夜中に目醒めてしまったことにため息を漏らす。こうなると、再び眠るのは難しい。

 雨の音がする。
 土曜、日曜と晴れていたのでヒロキくんは晴れ男なのかもしれない。

 ことんことん。ぽたぽたん。とんとんとんとん。
 雨粒が打ち付けられる音。
 
 布団の中でこうして雨の音を聞くと、自分の内側にも雨粒が落ち、水たまりに波紋が広がる様が頭の中に浮かぶ。瞬きをする。珈琲が飲みたいと思った。

 枕元に置いたスマートフォンを手にとって電源をつける。
 三時十二分。青白い光が眩しかった。

 SNSを開き、指でスクロールしながらインターネット上の友達たちの書き込みを読んでいく。
 ヒロキくんの書き込みもあった。


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