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耳にキス、キス、キス。
【女性向け 官能小説】

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螺旋-7

***

「珈琲、好きなんです?」

 向かいに座っているヒロキくんが聞いた。
 相変わらず、彼の髪の毛はさらさらで柔らかそうだった。
 笑うたびに天使の輪がふるふる揺れる。

 約束をした一週間後、わたしたちは約束どおりふたりでカフェに来ていた。
 まさかほんとうに、そしてこんなに早く約束を果たせることになるなんて。

「うん。ヒロキくんは?」

 こんなふうに軽やかに会話ができるなんて。
 なんだか信じられないような、不思議な気持ちだった。
 ふわふわとした、浮き足立つような気持ち。

「僕も好き。珈琲のにおいって、なんだかホッとする」
「あぁ、わかる」

 この珈琲を家でも楽しんでいるんですね、とヒロキくんが楽しそうに言った。
 僕も真似しようかな、とも。

 わたしたちは敬語とくだけた表現が混ざった口調で話す。
 距離をはかりながら親しみを込めつつ、相手の顔色を伺って……。

 この感じはなんとなく“友達に紹介してもらった男の子”と話すときと少し似ているかもしれないな、なんて考えながら珈琲をひとくち飲んだ。

 カウンター席が四つ、四人ずつ座れるテーブル席が三つ、二人掛けのソファーが向かい合わせに置いてあるテーブル席がひとつ。
 席と席の間隔が広く、それぞれの席に軽いけれどしっかりとした生地のタータンチェックのブランケットが置かれていた。

 全体が焦茶色で統一された、しっとりと落ち着いたカフェ。
 金古美色のアンティーク調の額縁に入った大きな紫色の花の絵が、まるで肖像画のように店の一番広い壁の真ん中に掛けられている。
 花瓶から溢れるように開いた花。
 燻んだ紫が青白い背景に浮かび上がっている。

 寂しげな絵だと思った。
 まるで、あのCDジャケットの絵のような──。

「誰かに淹れてもらった珈琲はやっぱり自分で淹れるより美味しい気がする」
「じゃあ、大学帰りとか時間が合いそうなときに遊びに行ってもいいですか?」
「え?」
「沙保さんのおうちで珈琲を飲みたいなって思って。僕が沙保さんに淹れて、沙保さんが僕に淹れる。だめかな?」

 まるで子犬が主人の顔色を伺うかのような表情。
 いじらしいとさえ、感じてしまうほどの。

 わたしは息がつまるような胸苦しさをのどの奥から吐き出すようにいいねと言って笑って、張り切って部屋の掃除をしておかなくちゃと言った。

 見られたら恥ずかしいもの──例えば毛玉だらけのカーディガンだとか小学生の頃から使っているキャラクターものの目覚まし時計だとかを隠さなきゃとちらりと思った。

「よかった。拒否されたらどうしようかと思った」

 ヒロキくんが小さく微笑んで言った。
 形の良い眉毛が下がる。
 髪の色に合わせて、眉毛も明るい色をしていた。

「拒否だなんて。そんなことしないよ。むしろ、すごく嬉しい」

 ほんとうは飛び上がるほど嬉しかったんだけど、それを表に出しすぎるのははしたない。そう思って慎重に言葉を選んだ。


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