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『Twins&Lovers』
【学園物 官能小説】

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『Twins&Lovers』-74

「そういえば、ふたみ、月曜日に痴漢にあったって言ってた」
「はい?」
 痴漢に何の関連性が? 勇太郎は言いかけてやめた。ひとみの言葉には、まだ続きがありそうだからだ。
「それを、誰かが助けてくれたって」
「じゃ、その人?」
「でも、名前、聞けなかったんだって」
「うーん」
 ますます分からない。当事者ではないから、憶測でしか物事を計れない。故に、考えていても埒はあかない。
「妙な関西弁を話す、髪をおったてた眼鏡の人だったらしいよ」
「………」
「八重歯が、特徴的だったって……」
「や、やけに詳しいんだね」
「だって、聞かないのに話すんだもの」
「あー」
 間違いない。どうやら、ふたみの想い人は、その関西人だろう。
「だとしたら、もう近くにはいないかもしれないなあ」
「でも、夏休みの時の話なら、たまたまこっちにきていた人だったかもしれないけど、ふたみが助けられたのは、今週の話だから、望み薄ってわけでもないでしょ?」
「探すの?」
 世話焼きなひとみのことだ。ひょっとしたら、妹のために、アテなき人探しなどという非常に疲れることを本気でやろうとしているかもしれない。
「本音はそうしてあげたいけど……」
さすがに、その労力の大きさを、知っているようだ。
「メガネをはめた八重歯の関西人にあったら、要チェックということで」
「わかったよ」
 まあ、落ち着く先はこの地点が妥当だと思う。
ふたみの恋心も、一過性のものかもしれないのだ。そんな曖昧な他者の感情に、必要以上に部外者が入れ込んで、その思いを掻き乱すのは良いことではない。
ただ、どんな形にせよ、ふたみが納得する結果には導きたいと思う。
「ね」
 不意に、ひとみが体を寄せて甘えてきた。
「さっきのじゃ、足りないよ」
 ふたみのことに考えをめぐらせていた勇太郎は、ひとみが何を言わんとしているのか掴みかねた。しかし、そのひとみが爪先立って、目を閉じている仕草を見て、彼女が何を求めているのか理解した。
(ホント、切り替えが早いよな……)
 さっきまで、ふたみの恋について話していたのも何処へやら。その話は、とりあえず完結させたものにして、ひとみは、今はふたりだけの時間を楽しむことにその考えを移行させたらしい。
 だが、勇太郎とてそれに異存はない。求められているのなら、それに応えてあげたいし、応えることで満たされて、とてもいい気持ちになれるのも好きだからだ。
「ン………」
 ひとみの唇を、さっきよりも深く塞いだ。熱くなってくる互いの頬が、気持ちの高ぶりを表す。互いの中に渦巻いている愛情を、伝えようとして。
(そうだな、ふたみちゃんにも―――――)
本当に好きな人と、こんなふうにふれあう心地よさを、知ってもらいたいと思う。それはとても、気持ちのいいことなのだ。
気分はすっかり、ふたみの保護者となっている勇太郎であった。





「ふたみー」
 放課後の廊下は、かすかな喧騒に包まれていた。部活動に連れ立っていくもの、そそくさと下校を急ぐもの、なんとはなしに立ち止まり談笑するもの。窮屈な学業から開放された時間を、それぞれがそれぞれのやり方で堪能している。
 そんな中、名前を呼ばれたふたみは、その声の主を探した。
「みのちゃん」
 それは、同じ学年で同じ文芸部の、安原美野里だった。ふたみにとっては、とても気の合う仲良しさんである。
「どうしたの?」
 彼女とはクラスが違うので、いつも部活があるときは連れ立って部室に向かうのだが…今日は活動日ではないはずだった。


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