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『Twins&Lovers』
【学園物 官能小説】

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『Twins&Lovers』-63

第6話 夏の囃子唄

「あのじじぃ………」
 病院から、封筒が送られてきたとき、勇太郎は、ぎょ、とした。しかし、その差出人が“安納郷市”と記してあったので、ひとまず安堵する。
これは、祖父が出したものだ。考えてみれば、祖父の身になにかあれば電話が先だろう。病院と名がつくだけで過敏な反応を示すのは、状況的に仕方がないのだが。
そして、安堵したとたん疑念が湧いた。何故に、祖父は、本名の安堂郷吉の名を使わず、官能小説家としての名を使ったのか―――。それは、中身を取り出してすぐにわかった。



元気か、勇太郎。ワシも元気じゃ。
この間の、楽しい時間のおかげで、ワシはまた寿命が延びた。礼を言うぞ。
お前のチェリー卒業記念に、ちょっと小話を書いた。送る。
これは、どこにも出しはせん。
お前だけのために、書いた話じゃ。まあ、暇なときに読め。
弥生さん、ひとみちゃん、それとその妹さんにもよろしく。


追伸
今日の久美ちゃんも、ないすばでぇじゃったぞ。



そんな手紙が一通と、原稿用紙の束。それが、封筒の中身だった。
原稿用紙には、短編の小説が書いてあった。題名は『めぐりあい』。間違いない。官能小説家“安納郷市”の最新作だ。
(僕だけのため?)
 気になる。だから、早速、読んでみる。そして、読み進めるうちに、勇太郎は悟った。
 これは、勇太郎とひとみをモデルにした話だ。この前話してしまった自分とひとみとの出会い、そして、初体験に至るまでの事の顛末が、よく似ている。
隣あって住む、優しそうな少年と勝気な少女の、官能小説が取りもつ初体験物語。
「あのじじい……」
 すべてを覗かれているようで非常にこそばゆい。が、よくよく読んでみるとその話は性に関心のある若い男女同士の、身悶えるほどに甘い純愛物語で、気がつけば勇太郎は、すっかりその世界に入っていた。いったい、何度、読み返したか知らない。
「読書感想文?」
 不覚にも、ひとみがやって来たことに気がつかなかった。横から、原稿用紙をさらわれて、初めて気がつく勇太郎。
「ナニナニ………ようやく繋がることの出来た喜びに震え、痛みの中にも感じる悦楽……って、ナニコレ!?」
 ひとみは、顔を赤くした。
 勇太郎は、説明の代わりに手紙を渡す。もう、隠せるような状況では、ない。
 ひとみは、手紙を読む。郷吉のものだとわかると、嬉々とした表情でそれを読み始めたが、途中で、また顔が赤くなった。ほんの少しだけ、怒り色。
「話しちゃったの!?」
 勇太郎は、頷く。言葉はない。言い訳は、きっと火に油を注ぐ。
「じゃ、知ってるの!?」
 “安納郷市”を、愛読していること。もう、勇太郎とひとみが身体を重ねていること―――――。声なきひとみの問いかけに、やはり声なく頷く勇太郎。
「きゃぁぁぁ!!」
 ひとみは、原稿用紙で顔を覆った。身悶えている。
 ――――が、
「………ま、いいか」
 そう言って、原稿用紙をしげしげ眺め出した。えらく切り替えが早い。
「“安納郷市”の最新作で、しかも、生原稿だもんね」
 そっちのほうが、嬉しいらしい。ひとみは、その小説を読み出した。
 恋人の前で、官能小説を読みふける少女……。なにか、禁じられた遊びに興じているようで、勇太郎の胸は躍る。
二人にしかない秘密。二人だけにしかわかちえない秘密。それは、とても甘美である。


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