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まことの筥
【二次創作 官能小説】

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まことの筥-16

「はっ……、うっ……」
 撫で回している間に漏れる悩ましい声。その度に身を固めているのが分かる。侍従も淫らになりそうになっていて、そんなはしたない姿をこれまで恬淡と退けてきた平中に見せたくはないから我慢しているのだ。そう思うと身が絞られるほどに切なさに包まれて、胸から溢れる喜びを気の向くままに叫びたくなる。
「あぐっ……」
 何かを飲み込んだような濁った声が聞こえた後、静かに侍従が口を開いた。「あの……、あ、あちらの戸……」
「なんですか?」
「……あちらの戸の懸け金を閉め忘れておりましたので、掛けてまいります」
 そう言って平中の腕を解いて身を起こそうとする。平中は離すまじと腕を固めたが、戸締りをしてここを密するということは、やっと侍従が自分に抱かれて乱れる覚悟を決めたということだと思い直して力を緩めた。
「早く行ってかけておいで。……早くね」
 身を起こす途中で先端に侍従の腰が触れて粘汁が漏れた。戻ってきたら暗闇の中に組み伏し、これまであしらわれてきた恨み言を囁きながら、目眩めく悦美に乱れさせて、許しを乞うて自ら抱きついてくるまで熱烈に攻めるのだ。平中はそっと股座に手をやって、今にも弾けてしまいそうな愛しみの分身へ触れつつ侍従の帰りを待ちわびた。
 ――隣の部屋から様子を伺っていた姫君の元へ、足擦りの音が近づいてきた。しかも近づくほどに早まる。扉を開けた侍従が入ってくると、くるりと振り返って乱雑に掛け金をはめた。
「……も、もう、こらえられませんっ……」
 戸に両手をついて崩れ落ちる。二人の女房が背後から忍び寄って彼女の両脇を抱えて立たせようとすると、
「うぅぐっ……、う、動かさないでっ!」
 万事そつなく、同僚の女房たちと話す時でも丁寧な物言いだった侍従だが、この時ばかりは二人に向かって罵るような言いぶりになっていた。しかし二人の女房にとっては、切羽詰まって凄む侍従は何の恐るるにも足らず、
「早くなされよ」
「まさかあの名高き侍従が、こんなところで?」
 そう口々に侍従を嘲りつつ、膝が折れる侍従を塗籠へ向かって導いていく。彼女たちを先に遣って、最後に塗籠に入る直前、姫君は錠を差した戸を振り返った。あの戸の向こうの闇の中、美しい貴公子は淫らな欲を抑えて体面を保ちながら、最早戻って来ぬ侍従を待ち続けるのだ。そう思うと胸が透いて、姫君は笑いをふき出すと塗籠の戸を閉めて錠を下ろした。
「筥を……! 筥をくださいっ……はやくっ!!」
 中に入ると明かりの灯った中で壁に影を揺らし、蹲って両手で下腹を抑えた侍従が叫んでいた。
「筥? 侍従さまに相応しい筥は、それそこに」
 若い女房が侍従の姿を面白げに見下ろし、床を指した。そこには岩瀬の肉竿の汚れを落とすために持ち込まれていた手水鉢がなみなみと水を湛えて置かれていた。
「そ、そんなっ……」
 側を通る姫君が床を軋ませたから、水面が残酷に揺らめく。姫君は茵に上がって、脇息に肘を突くと何も言わずに侍従を眺めた。
「それ、侍従。そのまま漏らすつもりか? 姫様のおられる前で単衣を悍ましき姿にしたら許さぬぞ?」
 年嵩の女房が侍従を煽り、目線で姫君の意向を伺う。
「……そうね。汚いことはやめてほしいわ」
 姫君がそう言うや否や、侍従の下腹から搾り込むような大きな轟きが鳴った。
「ああぁっ!!」
 強く腹を抑えて侍従がぶるぶると震えた。誰も何も言わなかった。ゆっくりと面を上げた侍従は脂汗が滲んだ顔を周囲に巡らせたが、皆が自分を見つめるも、どこからも慈悲を浴びることはできなかった。手をついて立ち上がったが直立できず、前屈みになって緩慢に進んでいく。侍従の黒眼に水面から反射する光だけが揺らいでいた。


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