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まことの筥
【二次創作 官能小説】

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まことの筥-14

 侍従が喚いた。岩瀬が頬を膨らませて含んでいた、甕の中に湛えられた米の煮汁を葦へと吹きかけた。侍従の体の中に、岩瀬の口内で温められた汁が流れ込んでいく。口の中の米汁すべてを侍従の体の中に吹き込むと、親指の腹で咥え口を抑えて、
「俺たち下々の家じゃ、糞が出ず腹が張った時はこうして治しまする」
 と言ってもう一口米汁を含むと、再び侍従の体の中へと吹き込んでいった。悲鳴を上げていた侍従だったが、途中からは床に肘をついた拳を握りしめ、垂れ落ちた髪を微震させて身を固めていた。
 何口かを侍従の体に注入した岩瀬が身を尻の正面から傍らに避けると、ゆっくりと葦を抜き取ろうとする。
「ああっ……、やめてっ、やめてくださいっ!」
 侍従が必死の形相で大声を上げたが、無慈悲に葦が抜き取られ、「ああっ!!」
 塗籠に放屁が響いた。まさか侍従のような女の尻からそんな音が暴ぜるとは信じがたい、岩瀬以外の皆がそう疑る前で、もう一度尻を鳴らしてしまった侍従は濁った絶叫を上げて菊花から米汁を噴き出した。しぶきで大殿油から煙を立て、放屁とともに米汁が飛び散っていく。
「……も、もう、死にとうござります……」
 残った汁を脚の内側へ垂れ流しつつ、侍従が言った言葉に姫君は胸の奥を熱く疼かせた。女房たちは嗤うことも忘れ、床に撒き散らされた米汁に顔を顰め、喉元へこみ上げてくる逆流を呑み込んでいたが、
「ねえ、何か違う」
 と岩瀬に言う姫君へ驚きの顔を向けた。姫君とて排泄したことはあるから、その時に筥に出された物の形も臭いも知っている。だが今侍従が床に撒き散らしたのはただの煮汁と変わりは無い。これでは侍従も自分と同じく不浄の孔を持っているという証にはならぬから不満だったのだ。
「少し足りませんでしたなぁ。もっと噴き込めば、より悍ましき物が、……この侍従様の尻から……」
 姫君の感慨に解説した岩瀬が、最後に気味の悪い含み笑いをすると、
「じゃ、もっと注いで」
 冷淡な顔で姫君が命じた。
「なりませぬ。これ以上、何の益が……」
 唐崎の諌言は無視をされ、まだ抑えつけられている侍従の菊花にもう一度葦が突き刺されると、岩瀬が甕の汁を口内に溜め始める。
「い、いやですっ……! もういやっ! 殺してください!!」
 発狂する侍従へ岩瀬がさっきよりもはるかに多い汁を注いでいった。「ううっ!」
 とっさに女房たちの手を振り払った侍従が、下腹を強く抑えた。よく耳を澄ましていると、天から鳴る雷鳴に似た音が侍従の腹から轟いている。
「おお、今にも噴出してきそうですなぁ。ですが、侍従様、こらえなされ? こらえればこらえるほど、中の穢物が煮汁で削ぎ落とされまする」
 侍従は片目だけ開いた顔で己の後ろを振り返った。撒き散らした汁が、米汁とそう変わらぬ姿であることを確認すると、腹の中を掻き回すように流動する汁は、今度こそはこう大人しく撒かれるはずはないと直感できた。岩瀬が葦を抜き取っていくと、渾身の力で奥歯を噛み、眉間を寄せて尻に力を込める。
(……あ)
 姫君は思い出して立ち上がった。どちらへ、と訝しむ唐崎には答えず、女房二人に命じて侍従を引きずらせる。塗籠の外へ出る時、侍従が悲鳴を上げたが構わずに隣の局へと連れて行った。



「待ちくたびれたよ」
 身を隠していた平中だったが、真っ暗闇の中でも体から燻る香ですぐに居場所が分かった。
「お待たせして申し訳ありません。……家の者も寝静まりました」
「……うむ、ということは……」
「はい」
 姫君の前には垂れ込める黒闇しかなかったが、その向こうで平中が心ときめかせているのが気配で分かった。手引きをする昂奮に姫君も心浮き立ち、片手で平中の袖を引き、もう一方の手は前に伸ばして屋敷の壁を辿りながら、局の前まで導いていく。
「……こちらです。お一人でおられます」
「おおっ」


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