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【箱庭の住人達〜荊の苑〜】
【学園物 官能小説】

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第二話-4


 少年の肩に置いた手に力が入り、爪を立てた。
「……っ!」
 孝顕が痛みで眉を寄せる。あごを掴んでいる手から逃れるようと、顔を横へ軽く振った。
「離して下さい」
 二度、三度、手を振り解こうと顔を左右に振るが離れない。じれた孝顕はあごを掴んでいる手を外すために手を伸ばす。
 佐伯は少年の抵抗に構わず、肩を掴んでいた手を首元へ滑らせネクタイの結び目に親指を掛けて引き下ろした。少年の手を適当にあしらいながら、ワイシャツのボタンを三つ程外して襟元を広げ、手を滑り込ませる。薄い胸板をゆるく撫で回してやった。
「ん……。せ、せ、んせ……。ぃ……い、や……」
 もがきながら苦しげに吐き出された言葉が、佐伯の背筋を甘く震わせた。弱い拒絶は嗜虐心をくすぐる。
 少年の顔を横へ向かせ、晒された白い首筋に口付けて舌を這わせた。胸をまさぐっていた手は小さな尖りを探り出し、人差し指と中指で柔く捏ねる。
「っあ……ぁ」
 苦痛とも吐息とも判断できない微妙な声が孝顕の唇から零れ、逃げようとしていた身体が震える。彼女の腕を掴んでいた手に力がこもった。
 少年が敏感に反応する度、佐伯の中にほの暗い愉悦が湧きあがった。
「!!」
 不意に少年が動いた。
 あごを掴んでいた佐伯の手が緩んだ隙にそれを引き剥がす。顔が自由になると、胸を這う手から逃げるべく身体を前傾させ腰を浮かせた。つられた佐伯が態勢を崩し、蹴られたパイプ椅子が派手な音と共に転がる。咄嗟に制服の背を掴み孝顕の上半身が机へ押しつけられた。押し出されるように鞄が床へ滑り落ちる。
 様々な音が狭い室内を満した後、急速に静かになった。二人の荒い呼吸音だけが残される。
 身体を押さえられ、うつ伏せになった孝顕が苦しげに呻いた。覆いかぶさっていた佐伯は制服を掴んでいた手を放す。唇を彼の耳元に近づけると静かな声で囁いた。
「誰かに、先生とこんなコトしてるの見られたら、どうしようか……」
 少年の腰へ移動した手が、わざとらしく尻や股間をじっとりと撫で回していく。
 込み入った話をするための室内は手前側をパーテーションで仕切り、出入り口の扉を開けただけでは中の様子が見えない。しかし、今のような大きな音がすれば、廊下に聞こえるのは確実。
 放課後とはいえ人はまだ多い。現に向うには、少ないけれど確実に人の気配があった。
「ねえ? 『優等生』 の夜刀神君……」
「――……」
 その、少年に貼られた教師達からの評価を、佐伯は敢えて口にした。
 孝顕は唇をきつく引き結び、ぐっと息を飲み込む。身じろぎして顔を横へ向けると、僅かに眉根を寄せ女教師を睨み上げた。目蓋を下しふうっと息を吐き出して、強張った身体を弛緩させた。
 佐伯は薄い笑みを浮かべる。
「いい子だね」
 彼女は身体を起こすと、幼い子供をあやすように頭を撫で髪を梳いた。
 途端、目頭につんと痛みを感じ、孝顕の視界が緩みかける。零れそうになった感情を押し戻すように、額を机に押し付けた。こんな風に弱っている自分を佐伯の前で晒したくない。好きだったあの暖かな優しさを、こんな時に見せる佐伯が残酷だと思った。


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