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プラネタリウム
【ラブコメ 官能小説】

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J-5

食器を一緒に片付けてくれるヤスタカを見て、しつけされてるなぁ…と思う。
20時を過ぎた頃にはヤスタカは湊とも打ち解けたようで、湊の膝の間に座りながらドラムの練習をしていた。
洗い物をしながら陽向もそれを見る。
「ハイハットってのはココ」
「ここー?」
「そ。でね、右足でバスドラをダンダンやって、ズッチャカジャカジャカジャーン!って」
「わかんないー!」
「おー、じゃ最初っからやるか?」
「やる!」
湊はリモコンでコンポを操作すると、お気に入りの曲をかけた。
両手でヤスタカの手を持ちながらリズムを刻む。
「ツタツタツタツタ…ジャンジャンジャンジャン!」
ヤスタカに分かるように声までつけて教えている。
「じゃんじゃん!」
「あー!違うっての。ここはね…」
「むずかしいよー…」

洗い物を終えて湊の隣に腰掛けると、ヤスタカが膝の間にやってきた。
ウトウトしている。
「今日はいっぱい遊んで疲れたね」
「うん」
「お父さん、もーちょっとで迎えに来るから、それまで寝てな」
「うん…」
「ヤスタカは元気いっぱいで、強い子だね」
陽向はテレビを見ながらヤスタカの頭を撫でた。
「父ちゃんが、強くなれって言ったの」
「そーなんだ」
「だからね、オレは何にだって負けない強い人になるの」
「そっか。ヤスタカならなれるよ、絶対」
「でも…」
「?」
「オレには母ちゃんがいないから、強さははんぶんなの」
「どうして?」
「父ちゃんと母ちゃんがいたらマックスなんだけど、オレには父ちゃんしかいないから、だからはんぶんなの」
陽向は黙ってヤスタカの背中をトントン…と撫でた。
湊は横でそれを聞きながらヤスタカの綺麗な茶色い髪に触れた。
「オレには母ちゃんがいないんだ、ってようちえんでいったら、どっかで拾われてきた子なんだろってトモダチにいわれた。そうなの?オレに母ちゃんがいないって、そーゆーことなの?父ちゃんもぜんぜん知らない人なの?オレは…オレはだれの子なの?」
みるみるうちに、ヤスタカの目が涙でいっぱいになる。
楽しく振舞ってた時も、ワガママ言ってた時も、強がってた時も、ずっとずっとヤスタカはそう思ってたんだ。
母親と死別した今、ヤスタカには母の存在はない。
母のように可愛がってくれる佐伯さんの両親のことも、きっと違う目線で見ていたのだろう。
陽向は静かに胸の中で泣くヤスタカの頭を撫でた。
「ヤスタカ…」
「…っ」
「泣かないの。…強い人になるんでしょ。いつも一人ぼっちなの分かってるけど、ヤスタカはそんなんじゃめげない強い子なんだから…」
ヤスタカは涙でぐしょぐしょになった目で陽向を見た。
そして、思い切り陽向を叩いて泣きわめいた。
それも、全部受け止めた。
ヤスタカは、理解のある子だし真実を受け止められる勇気のある子だから…。
その瞬間、陽向は無意識にヤスタカを抱きしめていた。
きつく……愛する我が子のように。
「あんたのこと産んでくれたお母さんに感謝しないと。感謝ってわかる?ありがとう、ボクを産んでくれて……そういう気持ちだよ」
ヤスタカは泣きわめいていてそれどころではなかった。
でも、自分について、その周りについて考えられるヤスタカの脳は同年代の誰よりもオトナだと思う。
「ヤスタカがここにいるのは拾われたからじゃないよ。お母さんとお父さんの間に産まれてきた、大事な大事な子なんだよ。ヤスタカ、産まれてきてくれて本当にありがとう、だいすきだよって、みんな思ってるから。お父さんもお母さんも、おじいちゃんもおばあちゃんもみーんな。産まれてきてくれてありがとう、って思ってるの。あたしも、そう思ってる」
「オレは……父ちゃんの子なの?」
「当たり前でしょ!ヤスタカの目も鼻もそっくりそのまんまお父さんとソックリ!あぁ…お父さんの子なんだなって初めて見た時から思ったよ。似すぎててビックリしたもん」
「そうなの……?」
涙でぐしょぐしょになったヤスタカを抱き上げて「そーやって、人を疑っちゃうトコなんてちょーソックリ」と湊は笑った。
「そんな泣いた顔で父ちゃんトコ行ったら、俺らがいじめたとでも思われんだろーが!」
湊は脇腹をツンツンしてギャハギャハ笑うヤスタカを見て楽しそうにした。
さっきの涙が嘘みたいに乾いて、ヤスタカは湊の肩に乗っかり「ストリートファイターごっこしよー!」とはしゃぎ始めた。
「俺リュウー!」
「オレはダルシム!」
陽向はストリートファイターなどよく知らないが、求められたため「レディー……ファイト!」なんてゴング係りをやらされた。
何戦にも渡る勝負を続ける。
男って、やっぱりこーゆーのが好きなんだ…。
陽向は半笑いでその戦いを眺めた。
でも、さっき泣いていたのが嘘みたいに、笑顔いっぱいのヤスタカを見て自然と笑みが零れる。
きっと強くなるよ、ヤスタカなら。


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