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【箱庭の住人達〜荊の苑〜】
【学園物 官能小説】

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第一話-7

「──私先生なのに、中学生のしかも自分の生徒に、こんなこと話す羽目になるとはねー」
 まいったな。そう言って佐伯は小さく笑い肩を揺らした。目元が潤んでいる。
 やはり聞いてはいけなかった、と孝顕は何も言えずに押し黙る。膝の上に置いた両手に視線を固定したまま、酷く後悔していた。
 二人の間に気まずい沈黙が落ちる。
「……で? 私に……、何か質問があるんだっけ?」
「え!」
 湿っぽい雰囲気を吹き飛ばそうと、佐伯は軽い口調で少年に話を振った。孝顕は突然の事に慌てる。適当に口から出した言葉など記憶から抜けていた。
「ねえ。私に質問って……、もしかしてこの話?」
 彼女は少年が最初に言った事をきちんと聞いていた。私情を晒してしまった気恥ずかしさもあり、からかい半分で隣に座る生徒の顔を覗きこみ、上目使いで見つめる。
「あ、あの……、いえ、ち、違います……」
「じゃあ、なに?」
 目を細め口元を楽しげに緩めて、佐伯はさらに問うた。慌てふためく少年がなぜだかとても可愛く思えた。
 手を伸ばさなくとも届く距離で佐伯に見つめられ、孝顕の心臓は一層強く跳ねる。微かに胃の辺りに奇妙な違和感が生まれたが、気にしなかった。
 それよりも今は目の前の問題である。本当は授業について質問などなかった。適当にでっちあげればいいのだが、焦りが先立ち考えをまとめられない。きちんと考えておけば、と今更のように思う。
「その……。あの……」
 答えを出せないまま言葉を濁し、孝顕は顔を逸らす。瞬きもせずじっと見つめる視線に耐えられなかった。隣にいる佐伯との距離が無性に気になる。ざわり。と、先ほどよりも強く身体の中を違和感が通り過ぎた。
「慰めてくれた……。だよね……?」
 佐伯が少しだけ声を落とす。
 身じろぎする孝顕の白い首筋に、佐伯の視線が吸い寄せられた。顎の線をたどって唇へと移動する。厚くもなく薄くもなく、綺麗な形をしていた。
 この少年はどこまでも整っている。
 睫毛に縁取られた二重の目元や、すっきりとした輪郭に通った鼻筋。いや、顔だけではない。一分の隙もなく、きっちりと制服で身体を包み込んでいる様は極端に禁欲的で、歳相応の爽やかさとは明らかに違った。同年代の少年少女の中にあって、異質なまでに整えられている。
 触れることを許さない頑なさの奥に、かえって危うい艶めかしさを感じ、佐伯はぞくりと胸の内が粟立つのを覚えた。無意識に唇を舐める。
 目の前の少年に触れてみたい。
 逸らされた顔を覗きこもうと身体を傾けると、彼女の肩が孝顕の身体に触れた。
(ああ……)
 孝顕の内側を撫でていた違和感がはっきりと心臓を震わせる。毛穴がそそけ立つような悪寒が全身を駆け抜けた。
「優しいね、夜刀神君は」
 傾けた姿勢のままに佐伯はさらに距離を詰める。互いの息が絡むほど近くへ。
(駄目だ────)
 佐伯の左手が膝に置かれていた孝顕の右手に重なる。
「……先生……」
 困惑の混じる微かな呟きを遮るように、佐伯の唇が孝顕のそれに触れた。動くことが出来なかった。
「っだ、駄目です……。先生……」
 佐伯の唇が離れた隙に、孝顕はか細い声で繰り返す。
「夜刀神君……」
 悲しみと不可思議な熱を孕んだ囁きが彼女の唇から漏れた。
 孝顕が苦しげに表情を変える。離れようと身じろぎしたところで、彼の手に重ねられていた手とは逆の手が持ち上がり、肩に置かれる。手は制服をなぞって襟元へ移動すると、首を伝い後頭部へ回された。
 孝顕の身体が緊張に震える。
「駄目です」
 逃げるように身体を引くが、頭へ回された手が距離をとることを許してくれない。


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