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【箱庭の住人達〜荊の苑〜】
【学園物 官能小説】

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第一話-8

 今度は、はっきりと唇を塞がれる。交差するように重ねられた佐伯の唇がゆるく蠢き、孝顕のそれをくすぐるように何度もなぞった。柔らかい感触に身体が粟立つ。こらえきれず薄く開けられた唇の隙間から、舌がぬるりと入り込んできた。
「……っ! これ以上は、止めて下さい」
 顔を動かして強引に彼女の唇から逃れると、孝顕は小さいが確かな声で伝えた。
「ごめん……」
 少年の辛そうな横顔を視界の端に収めながら佐伯は呟く。駄目だと解っていても、彼女は自分を抑えられなかった。一度(ひとたび)あふれ出した衝動を収めきれず、行き場のない感情の出口を少年に求めた。
「……ごめんなさい」
 佐伯は繰り返しながら少年の頬に唇を触れさせる。それまで目元に留まっていた涙が、瞬きに押されて零れ落ちた。
 静かに涙を流し始めた彼女に、孝顕は顔を背けたままさらに身を硬くする。彼女を受け止めたいのに、強い嫌悪感も体内を這い回る。どうしていいのか解らず動けなかった。
「ごめんね。ごめんなさい……」
 このままでは確実に過ちを犯してしまう。頭の隅で常識と倫理を意識しながらも、佐伯は身体が動くに任せた。
 左手を上げると上着の前を開け、手を滑り込ませる。ワイシャツの上から腹部を撫でると、少年の身体がびくりと大きく揺れた。
「せ、せんせ、い……」
 息を詰まらせながら孝顕が小さく呻く。掠れた声に怯えが混じっていた。
 佐伯はネクタイを解きシャツのボタンを下まで外すと、直接肌に触れる。予想外の滑らかな感触に一瞬手が止まったが、昂ぶる自身の気持ちを宥めるように、幼さの残る少年の身体をゆっくりとなぞっていった。
「やめて……下さい。先生……」
 身体を這う手を除けようと孝顕が手を伸ばす。相手の二の腕を掴み引き剥がしたが、シャツを伝ってすぐに取り付かれる。強張った身体は思うように動かず、何度振り払っても絡みついた。彼女の手が蛇のように肌を這う度、身体が震え呼吸が乱れた。
「ごめんね。今だけでいいの」
 佐伯は少年のあご先に唇を軽くあて、首筋から鎖骨へと滑らせていく。身体を傾け少しずつ覆いかぶさるようにして、強く抵抗できないでいる彼を、絨毯の敷かれた硬い床へ縫いとめた。
「っ……、これ以上は駄目です。……先生らしくない! こんな……」
 押し付けられる女の柔い肢体と首筋を這う舌の感触で、孝顕の身体に怖気が走る。普段と違う佐伯に恐怖を覚え、竦みそうになる身体を叱咤して再び彼女を引き離しにかかった。
 両肩を掴んで押しのけたり、手を引き剥がそうとしてもうまくいかなかった。腹や胸元、首周りを滑る彼女の掌や唇の刺激に、度々力が抜けそうになる。
 本格的なもみ合いになりかけた刹那、額がぶつかりそうな程接近した佐伯の強い視線が、孝顕の目を真正面から捉えた。

「っ――――!!」

 暗く澱んだ瞳を覗き込んだ瞬間、少年の体が一度、大きく震え硬直した。
 眩暈と共に視野が揺れる。一気に音が遠のいていく。何処にいるのか分からない。自分を組み敷いているのは誰だ。
 少年の思考は乱れ、混乱する。


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