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【箱庭の住人達〜荊の苑〜】
【学園物 官能小説】

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第一話-5

  ◆  ◆  ◆

 佐伯は翌日の授業準備のために第二講義室にいた。彼女は地理を担当していて、写真や動画などの映像資料を積極的に使った授業を行っている。そのため、都合がつけば講義室か視聴覚室を使っていた。ここなら、様々な映像資料を生徒に見せることも容易いし、大型スクリーンも設置されている。
 孝顕は他の教室よりも若干重さのある防音扉を押し開いた。
 四十人も入れば一杯になる小さな第二講義室、佐伯はその隅にある教卓の脇にしゃがみこんで、なにやら難しい顔で配線を眺めている。
「佐伯先生」
「あら、夜刀神君どうしたの?」
 佐伯が手元から声の方へ視線を移動させると、肩に鞄をかけた少年が歩み寄ってくるところだった。彼は今のところ帰宅組なので、これから帰るのだろう。
「すみません、昨日の授業の事で質問があったんですけど……。何か、忙しそうですね……」
 しゃがんでいる教師の手元を孝顕は遠慮がちに覗きこんだ。
「ん〜、ちょっとね〜。スクリーンが写らなくって……」
 機械類って苦手だわ、と困ったように佐伯が笑った。
「手伝います」
 孝顕は教卓の向かいにある机に鞄を置くと、同じように彼女の隣にしゃがみ、手元の配線を一つづつ確認していく。
「スクリーンのコードはこれですね。きちんと繋がっているから、電源を入れればいいだけのはずです。たぶんパネル側だと思います」
 そう言って立ち上ると、教卓に設置されている操作パネルを確認した。電源を入れ壁のスクリーンを確認しながら、手馴れた様子でスイッチを操作する。スクリーンは白い光を放っていたが何も写らない。壁からパネルへ視線を移動させ、台の下を覗いた。
「なんだ。これか」
 何に気づいたのか少年が屈みこんだ。状況の分からない佐伯が見つめているなか、さして時間もかからずに立ち上がり、再びスイッチを操作する。と──。
「あっ!」
 佐伯が声を上げる。
 スクリーンの色が青く変わり、製品のメーカー名を示す洒落たロゴが大きく映し出された。
「夜刀神君、すご──い! どうやったの?」
 佐伯は立ち上がると、感心と尊敬の眼差しを少年へ向けた。少女のような面差しをしていても、やはり男の子。こういうときは頼りになる。
 手放しで喜ぶ教師に、孝顕は顔が熱くなっていくのを感じる。目の前で無邪気に笑う先生は花のようで、意識した途端に心拍が一気に跳ね上がったのだ。むやみに踊る心臓を宥めながら佐伯の疑問に答えた。
「映像をスクリーンに映すための接続コードが違う所に挿してあったので、それを戻しただけです」
 前の授業で使ってそのままだったのだろう。黄色い映像用コードは、スクリーン出力ではなく別のモニター出力へ繋がっていた。多分テレビモニターだ。
「そうなんだ。ありがとう、すっごく助かった! もう、どうしようかと思ってたから!」
「お役に立てたようで、何よりです」
 久しぶりに見る、彼女の屈託ない笑顔を眩しそうに見つめながら、孝顕は続ける。
「他に、何かお手伝いすることはありますか?」
「え、そう? じゃあねー、こっちにあるプリントを順番にまとめて……、こうやってホチキスで留めていって欲しいんだけど」
 佐伯は説明しながら、向かいの机に置いていた紙袋から数種類のプリントを取り出し、並べ始める。
 物静かで自分から声をかける事のあまりない生徒が、いつもより少しだけ積極的になっている。孤立しないかと心配していた少年の変化が、彼女は純粋に嬉しかった。


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