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笛の音
【父娘相姦 官能小説】

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笛の音 4.-7

 有紗は電話に耳をすましながらディルドを挿抜させ、もう一方の手でランジェリーの上から硬突した乳首を抓った。脳髄の芯まで快美が走り、口を大きく開けて仰け反ってしまう。声は出なかった。声とならないほど高い声となって、自分の腕の力が負けてしまいそうなほど、ディルドを搾ってしまう。
「……やっぱり、私の身体、魅力ない、かなぁ……」
「そんなこと、……ない」
「じゃあっ」
 愛美が涙声になっている。無理もない。「なんでっ……、興奮してくれないのかなぁ……」
「愛美……」
 直樹の呼び捨てが聞こえて、引き寄せた枕の端を強く噛む。直樹に呼び捨てにしてもらえる女を噛み千切りたい。頭に浮かんだのは妹ではない。あの子は自分が直樹に再会する前からそう呼ばれていたのだ。妹は特別だから、遡及して問責しない。だがもし、自分は「さん」付けで呼ばれているのに、自分以上に親しみを感じさせるような呼ばれ方をする女が他に居るのならば、誰であろうとも同罪と見なして八つ裂きにしてやる。そう想像しただけで歯茎に血が滲みそうなほど枕カバーを噛み締めていた。
「知ってるよ……。……知ってるんだ。直くん。……わたし」
 号泣するかと思った愛美が、間を置いたあと急に落ち着いた口調になった。
 だから有紗は急いだ。唾液で歯形のついた枕から口を離す。慌てたせいで気泡が混ざって、ディルドと通り道に淫らな音が立ってしまった。もともと寸止めしていたのだから、その堰を解いてやれば良い。
(いく……、あ……、直樹……)
 有紗は脚を伸ばし、すぐにまた曲げ、背を捩らせて、腹の中へ突き入れるディルドが媚壁を掻き回してくる快楽に身を浸した。
「直くんが、できない理由。わかってる……」
(……、……直樹っ)
 愛美の声を聞きながら真っ白になる。――おい、質問に答えてくれよ。
 絶頂の夢現の中で彼の声が聞こえてくる。誰を葬って欲しい?
 愛美。これだけ直樹の恋人として憎んでも、この世からいなくなって欲しくはない。心から幸せになってほしい。「いい姉」でいたいからでもなんでもない。本気でそう思っている。唯一の家族だ。もう父も母もいない。もし愛美までいなくなったら、一人残される自分は到底生きていけないし、愛美が葬られても、きっと直樹は自分のものにはならない。
 明彦。最初は彼が救世主だった。彼に身を任せれば煩憂が解けるのだと想っていた。それが、いい男だったのに、今は寒気もする肉欲の変態へと堕ちていってしまっている。誰のせいだろう? 分かり切っている。そしてもう、彼には死んでもらうわけにはいかないのだ。
 直樹。検討してみるだけ馬鹿げている。全ては彼のためだ。そして全ては彼のせいだ。神聖な彼を葬ろうなど冒涜もいいところだった。フルートの彼がどれだけ全能であっても、どんな手段を使ってでも、それだけはさせない。
 せっかく自分は、明日死んでもいい生き方を選んだのに。
(……わたし)
 彼に向かって言った。声にはならなかったが、届いたはずだ。溜息をつかれ、悪魔のくせに慈悲深い目で見下された。




「……叔父に、……ウチの父に何を言われたんですか?」
 いつも『射精場所』としているソファに明彦を座らせたが、のしかかりも跨がりもせず、腕組みをして冷ややかに見下ろした。二人きりになって、有紗に手淫してもらえる期待に上気していた明彦だったが、徐々に顔を真顔に戻していった。
「証券を辞めて一緒に外資ファンドに移ろうって言われたよ」
「……で?」
「今担当している企業も、そこから繋がる企業にもパイプがある。すべてひっくるめて資金を集めて土産にしようってね」
「悪いこと、するんですか?」
 明彦はだらしなく背凭れに身を預けていたが、ワイシャツの下にブリーフを晒した姿なのにどっしりと構えて座り直すと、膝の上で手を組んだ。
「そうだね。バレたら背任行為……、じゃすまないな。法令に触れちゃうのかも」
「捕まっちゃいますよ。……やめてください」
「心配してくれんの?」
 そんな明彦の顔を初めて見た。膝まで下ろしていたズボンを上げつつ向けた顔には、自嘲し、そして有紗の偽善も嘲ける笑みが浮かんでいた。爽やかだった彼にも、愚劣プレイにハマる彼にも、相応しくない口元だった。
「……。他にも、何か言われたんじゃないんですか……?」
「うん、言われたよ」
「じゃ、なんで、ずっと何も言わないんですか?」
 明彦は、ぱん、と膝の上に乗せていた手をひとつ叩いた。ずっと腕組みをしたまま立っていた有紗はいきなりの大きな音に驚いて肩が揺れる。有紗を見る彼の口端が遜って歪んでいた。
「結婚したいの? 俺と」
「イヤです」
 有紗は即答した。
「……だろうね」
 明彦は多分の息とともにそう言うと立ち上がり、有紗のほうへ近づいてきた。追い詰めようとする彼の佇まいに一歩後ずさりする。
「乱暴、する気ですか?」
 後ろに下がりながら有紗は睨み返した。いつもなら恐縮してひれ伏すはずの睨目を見せても、明彦は意に介さず有紗へ近づいてくる。
「言う通り土産を用意すれば、有紗と結婚させてやる、って言われた」


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