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忘れ得ぬ夢〜浅葱色の恋物語〜
【女性向け 官能小説】

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半世紀の時を経て-2

 遡って今年の6月の終わり、久しぶりに実家を訪ねた私とその妻は、年老いた両親と兄夫婦と共に夕食を楽しみました。
「ま、たまにはゆっくり親父と話でもしていってくれよ」
 歳の離れた兄は夕食後、そう言ってさっさと二階に上がっていきました。台所では食事の片付けと称して妻たちのかまびすしい会話が止めどなく繰り広げられているようでした。

 父照彦は、私に向かってぼそりと言いました。「シヅ子はどうしてる?」
 テレビのバラエティ番組を見るともなく見ていた私は振り向き、狐につままれたような顔をしました。「なんだって?」
「だから、おまえの娘のシヅ子は、」
「俺の娘は香織と志織の二人しかいないけど」
「そうそうその志織はどうしてる?」
 私は怪訝な表情を崩そうともせずに答えました。「普通に働いてるよ。会社で」
「彼氏はいるのか?」
「つき合ってる男はいるらしいよ」
「なにっ?!」父はいきなり大声を出しました。「どこで知り合ったオトコだ?」
 私はますます眉間の皺を深くして言いました。「何だよ、父さん、何興奮してるんだよ」
「まさか妻子持ちとつき合ってるんじゃなかろうな?」
 私は思わず噴き出しました。「そんなわけないだろ。なにバカなこと言ってるんだ」
「シヅ子は会社で、」
「志織だってば。自分の孫娘の名前を間違えないでくれないかな」
「会社で、その……上司から誘惑されたりしとらんのだろうな?」
 私はイライラしながら言いました。「知るかよ。って言うか、そんなことされたら拒絶するだろ、普通」
 父は少しうつむいて、上目遣いで私を見ました。「心配なんだよ……」
「あり得ない」私は肩をすくめ、目の前の父親に身を乗り出し、言い聞かせるように大きな声でゆっくりと言いました。「つき合ってる彼氏は会社の先輩らしいけど、ちゃんとした独身だし、そこで上司に絡まれたりしたら、その彼が始末つけてくれるんじゃないか?」
「……そうか」
 彼は安心したようにため息をつきました。
「何だってんだよ、まったく……」
 私は座卓に置かれていた湯飲みを手に取りました。
「おまえは、」
 また唐突に父が口を開きました。私は思わず目を上げました。
「まさか会社で若い子に手を出したりしとらんだろうな?」
「は?」
「宴会の場で口説いたりしとらんだろうな?」
「父さん……」私は本気で呆れ顔をしました。そしてこの老いた父が心配になりました。「どうしたんだよ。変だよ、今日は」
「いかん! 絶対いかんぞ! その子にはちゃんと恋人がいるかもしれんのだからな」
「いいかげんにしろよ。俺がそんなことするわけないだろ」
「シヅ子にも言っとけ」
「……『志織』だから」
「そんな誘惑に乗っちゃだめだ、って言っとけ!」



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